<前編のあらすじ>

佳織(36歳)が暮らすタワマンでは、最上階に住んでいる英里菜が主催するママグループのお茶会が毎週開催されていた。会費は1万円。高すぎる上に、一流企業に勤めている夫や子供や高額アクセサリーの自慢をされるだけの時間は佳織にとって苦痛でしかなかったが、同じマンションの付き合い上、仕方なくお茶会に参加し続けていた。

他のママ友たちも不満を持っていたようで、英里菜がいないところで、料理が1人1万円もするのは疑問で、彼女が参加費を着服しているのではないかとのうわさがたつ。

そんなある日、息子の佑が毎日公園で会っている「おじさん」が、英里菜の夫だということが分かった。

●前編:タワマン最上階で“参加費1万円の高額お茶会”を主催するボスママの「人には言えない秘密」

真実を突きつけられた英里菜

次のお茶会の日、最上階にある英里菜の豪華なリビングルームは、いつも通りきらびやかに飾られていた。しかし、そこに集まったママ友たちの表情は、いつもとは少し違っている。普段なら英里菜の派手な自慢話に相づちを打ち、笑顔で会話を続けるはずの彼女たちが、今日はどこか静かに、緊張感を漂わせていた。

「まあ、聞いてよ。最近また主人が昇進の話をしてて、もう少ししたら今度は海外勤務になるかもしれないって……」

英里菜はいつもの調子で話しているが、輪のなかからぼそりと聞こえた声がその声をさえぎった。

「海外って、公園の間違いじゃないんですか」

その瞬間、部屋の空気がピリッと引き締まるのが分かった。英里菜は一瞬だけ固まったが、すぐに取り繕うようにほほ笑んだ。

「何のこと? ていうか、今誰が言ったの?」

英里菜はわずかに引きつった笑みでママ友たちを見渡すが、ママ友たちは佳織も含めてだんまりだった。

「ちょっとなになに、みんなおかしな空気よ。全く、ひがまれるのも困っちゃうわね。変なうわさがたって」

少しずつ英里菜の表情には焦りが浮かんでいく。追い打ちをかけるように、別のママ友が口を開いた。

「でも、うちの子も、公園で英里菜さんの旦那さん見たって。総合商社の管理職ってそんなに油を売ってて平気なの?」

きっとここまで食い下がられるとは思っていなかったのだろう。英里菜は目を泳がせて、次の言葉を探しているようだった。

「は? 何言ってるの。そんなわけないでしょ。うちの旦那は……」

明らかにしどろもどろになる英里菜に、佳織たちの不信感は高まっていく。

「あの、私もいいですか?」

やがて耐えきれなくなった佳織は手を挙げた。このお茶会から解放されるためには、これが最初で最後のチャンスかもしれないと思った。

「ずっと不思議に思ってたんですけど、毎回1万円も払ってるのに、あの料理の内容じゃどう考えても合わないんじゃないかなって。領収書とか、内訳、見せてほしいんです」

佳織が言い終わった瞬間、英里菜は凍り付いたようにぴたりと動きを止めた。唇はきつく結ばれ、しばらくの間、英里菜は言葉を発しなかった。やがて、英里菜のきれいにメイクした顔に一筋の汗が流れた。身体が小刻みに震えていた。

「そんなものあるわけないじゃない! 言いがかりをつけるのもいい加減にしてよ!」

英里菜が立ち上がり、佳織をにらみ付ける。だが佳織をかばうように、ママ友たちから声が上がる。

「でも変よね。確かに高すぎるもの」

「あの程度のマカロンであの値段なんてねぇ」

「説明する責任があるんじゃない? 英里菜さん」

口々に英里菜を糾弾する声が上がった。英里菜は奥歯をかみしめ歯ぎしりをした。

「もう何なのよ! あんたたち、私のおかげで散々いい思いしたじゃない。ほら、このバッグは誰にもらったの! このネックレスも! イヤリングも! 散々うちに来ておいて、あんたたちも同罪よっ!!」

英里菜は顔を真っ赤にしてわめき散らしたが、佳織は冷静だった。

「じゃあ、本当は1万円もかかってないんですね?」

「そうよ! 手間賃として少し多めにもらってただけよ! それを生活費に使って何が悪いの⁉ うちは毎回、場所を提供してるんだから、それくらい別に良いでしょ⁉」

英里菜が叫ぶや、室内はぴたりと静まり返った。

「……やっぱり、そうだったんですね」

「え、じゃあなに。私たち、ただの財布代わりにされてたの?」

「もう信じられない! 使い込んだ会費、全額返してもらうわよ!」

次々とママ友たちが非難の声を上げ始める。その中には、英里菜のおこぼれをもらっていた取り巻きたちの姿もあった。もはやこの場に英里菜の味方は誰一人としていなかった。