たばこ米4位を3780億円で買収、アメリカ進出を強化

JTの将来性は、アメリカ進出の成否がカギの一つとなりそうです。JTは2024年8月、米ベクターの買収を発表しました。

ベクターはアメリカ4位のたばこメーカーです。買収額は3780億円となる見込みで、成立すればJTにとって過去4番目に大きい買収となるとみられています。買収は独占禁止法上の承認などを経て、公開買付などで全株式を取得する方法で行われる予定です。手続きの完了時期は2024年度中を予定しています。

【JTの主な海外M&A】
・米RJRナビスコの米国外たばこ事業:9440億円(1999年)
・英ギャラハー:1兆7200億円(2007年)
・米ナチュラル・アメリカン・スピリットの米国外たばこ事業:5914億円(2016年)

出所:JT 有価証券報告書

アメリカは燃焼式たばこの主要市場の1つであり、RRP(※)では世界最大の市場とみられています。ベクターの買収が成立した場合、アメリカでのシェアは2.3%から8.0%へ拡大するとJTは分析します。主要な市場での拡大は、JTの業績を押し上げる効果が期待できます。

※RRP(Reduced-Risk Products:リスク低減製品):健康リスクを低減する可能性のある製品群。加熱式たばこ、電子たばこなど。

アメリカ地域の拡大は、単なる業績の押し上げにとどまらず、為替リスクの低減効果も期待されます。

JTが高いシェアを握る地域には、ロシアやトルコといった新興国が少なくありません。新興国通貨は為替の変動が比較的大きく、JTの業績も為替の影響を受けやすい状況です。

基軸通貨である米ドルは、新興国通貨と比べれば変動が小さい傾向にあります。米ドル建ての売り上げや資産が増えることは、JTの為替リスクを低減させる効果が期待できます。

JTにとってベクターの買収は、手薄だったアメリカ市場の強化と、為替リスクの低減が期待できる戦略といえます。アメリカ進出が成功すれば、JTの株価にもポジティブな影響がありそうです。

文/若山卓也(わかやまFPサービス)