なぜお米がないのか…需給それぞれで考える

米の民間在庫が減少する要因は、単純化すれば2つに絞られます。何かの理由で米の生産が減るか、需要が盛り上がるかです。

生産について見てみましょう。この7月の民間在庫は昨年のお米の出来具合が影響するはずです。そこで2023年産水稲の作況指数を見ると、全国の作況指数は101でした。つまり「平年並み」です。お米の供給側を見れば、民間在庫が大幅に減る要素が見当たりません。

ちなみにかなり昔の話になりますが、1993年は冷夏の影響により、いわゆる「平成の米騒動」と言われる状況になりましたが、この時の作況指数を見ると、全国が74でまさに大不作でした。特にこの年、北海道の作況指数は46,青森が28、岩手が30というように、東北から北海道で壊滅的なダメージを受けたことが分かります。

それから比べれば、2023年の作況指数である101は不作でも何でもなく、民間在庫が大幅に減った理由として、供給側には特に大きな問題はなかったと見るのが妥当でしょう。

加えて言うなら、先にも触れたように、お米の民間在庫が前年同月比でマイナス続きになったのは今年7月に限った話ではなく、2022年9月からほぼ毎月のように続いていますが、2022年の作況指数は100だったので、これまた供給側に問題があったとは考えられません。そうなると、民間在庫の減少を引き起こした原因は、需要側にあったと考えられます。

とはいえ、これは基本的な認識として把握しておきたい点ですが、主食用米の需要量は年々減少傾向にあります。1996年当時の主食用米の需要量は年間944万トンでしたが、2022年のそれは年間691万トンです。多少の上下動はありますが、2013年以降はほぼ一貫して減少傾向を示しています。基本的なトレンドとして、米の需要は減少しているのです。

そうであるにもかかわらず、どうしてこの夏になって急に、米不足が心配されるようになったのでしょうか。

米の全体需給を見ると、生産量と総需要量は過去、大きく上下が入れ替わるのと同時に、生産量の増減がかなり激しく変動しています。

たとえば1967年産米の総生産量は1445万トンであるのに対し、総需要量は1248万トンで、大幅余剰でした。

このように、総生産量が総需要量を大幅に上回る年が、1968年産米、1975年産米、1977年産米、1984年産米、1986年産米、1994年産米とある一方で、1971年産米は総需要量1186万トンに対し、生産量は1089万トンと大幅不足でした。それと同様、1980年産米、1988年産米、1991年産米も不足で、特に1993年産米は、総需要量が971万トンであるのに対し、生産量は783万トンに止まりました。ちなみに直近では2003年産米が、総需要量891万トンに対し、生産量は779万トンで、大幅不足になっています。

ただ、2004年産米以降の生産量を見ると、増減幅が非常に狭まっているのが分かります。かつ生産量と総需要量の差が小さく、たとえば2022年産米にいたっては、生産量が807万トンであるのに対し、総需要量は806万トンです。つまり生産量と総需要量がほぼ完全バランスに近い状態にあると考えられます。ちなみに「総需要量」は主食用だけでなく、飼料用や加工用などの数量も含まれています。

このように総需要量と生産量がタイトにバランスしている状況下では、ちょっとした原因で生産量が減ったり、総需要量が増えたりすることで、米不足に陥る恐れが生じてきます。インバウンド需要による米の消費増や、宮崎県の地震によって南海トラフ地震への警戒感が高まり、お米の買いだめに走る人が増えるといった、イレギュラーな事象が起こると、一時的にしても需要が高まり、米不足に対する不安が生じ、それがお米の価格を押し上げる状況も起こり得るのです。