<前編のあらすじ>
水咲(32歳)の夫・優太(36歳)は、パリ五輪での日本選手の活躍に刺激され、前々からおなかまわりの脂肪が気になり始めていたこともあり、一念発起して健康のために運動すると宣言した。
水咲も学生時代はバスケをやっていて、身体を動かすのは好きだったため夫のランニングに付き合うことにする。優太は運動と無縁の生活をしていたこともあってか、簡単な食事制限と週2回のランニングで効果はすぐに出はじめ、おなか周りがすっきりした。
その頃から優太は「ダイエットのためだから」とサウナスーツを購入し着て走るなど、ダイエットにのめり込んでいく。水咲は心配していたが、うれしそうな優太の姿に何も言えずにいた。そしていつものように夜のランニングに出掛けたとき、優太が突然地面に崩れ落ちてしまった……。
●前編:突然倒れこんだ夫…白米を一切食べずダイエットにのめり込んだ「驚きの理由」
夜の熱中症の原因は…
一向に応答しない優太にうろたえながらも、水咲はすぐに救急車を呼んだ。駆けつけた隊員は手際よく優太を担架に乗せていった。
「あの、一緒に、走ってたら、急に夫が、た、倒れて……」
「大丈夫ですよ。落ち着いてください。今から病院に搬送しますので、救急車に乗られてください」
水咲は言われるがまま、隊員の指示に従って病院へと向かった。優太は熱中症と診断された。さらに倒れた拍子に腕が身体の下敷きになってしまった結果、橈骨(とうこつ)が折れてしまったらしい。
「しばらくはギプス生活になりますね」
年老いた医者は粛々と説明をする。
「どれくらい掛かりますか?」
「まあ、そこまでひどくないし、4から6週間ってところだと思いますよ。そこまで生活に支障はないと思いますけど、慣れない最初は大変だと思いますけどね」
「でも、日が出てない夜なのに、熱中症なんてなるんですか?」
水咲は気になってることを質問してみた。医者は当然だとうなずいた。
「日があるとかないとかは関係ないです。確かに太陽がある時間帯がなりやすいのは事実ですよ。日が照っていて、汗をかきやすいですから。要は汗をかきすぎるのが熱中症の原因なんで」
汗という言葉を聞いて、水咲はハッとした。
「そうか、サウナスーツ……」
「そうそう。この暑い季節にサウナスーツなんて着て、走ったら、ああなるに決まってます。運動は良いことですけど、やりすぎは毒ですよ」
医者にたしなめられて反省した。水咲も明らかに優太はオーバーワークだと思っていた。最近は仕事も多く、疲労もたまっていた。それでも、優太は食事制限とランニングを続けていたのだ。水咲はやりすぎると途中で、嫌になって止めてしまうことを危惧していた。
しかし医者から見れば、命の危険を顧みない向こう見ずな行動だったというわけだ。