グローバル債券&為替&キャッシュ運用グループ(FICC)担当CIO
マシュー・スタインウェイ(Matthew Steinaway)氏
――2024年度のグローバル経済の見通しをお聞かせください。
世界的なインフレ・好景気の反動が懸念されますが、急激な経済悪化には至らずソフトランディングとなる見通しです。米国におけるインフレ正常化とともに利下げが進むと見込まれており、同様の動きがほかの主要国にも広がっていくと考えられます。とりわけ欧州諸国は、米国よりも早いタイミングで利下げを進めるかもしれません。
米国の利下げは当初のコンセンサスよりも大幅に後ずれとなりそうですが、遅くとも年内には利下げサイクルに入ると予測しています。利下げ幅については、今年から来年にかけて150~200bp程度となるでしょう。
――債券市場の先行きについてはどうでしょう。
クレジット市場においては、2023年度末の段階で各種ファンダメンタルズの堅調さを背景にかなり強気の状態にあり、足元でも好景気を前提とした債券価格(クレジット・スプレッド縮小)になっていると見ています。今後はファンダメンタルズが徐々に悪化していく見通しですので、クレジットスプレッドがこれ以上タイト化するとは考えにくく、どちらかと言えばワイド化していく可能性のほうが高いでしょう。その一方で、ベース金利部分は低下する見込みです。いずれにしても、債券は利回りの高さから、引き続き注目に値する投資先であると考えています。
――これからの市場見通しを踏まえた債券投資のトレンドや投資機会にはどのようなものがありますか。
まずトレンドとしては、グローバルな債券市場のボラティリティ上昇が挙げられます。市況は国によって大きく異なり、利下げをすでに進めている新興国があれば、これから着手する先進国もありますし、日本のように利上げしていく国もあります。
投資機会として注目しているのは米国のクレジット市場です。プライシングの面でタイトではあるものの、米国の景気が比較的堅調であるため、利回りの高さから着実にリターンを得られる投資先と見て選好しています。ハイイールド債についても、セクターの選別などにより好ましい投資機会が得られると見ています。
――具体的にどのような債券戦略を推進していますか。
債券投資のあらゆるエクスポージャーを「インデックス化」する運用戦略を推進しています。かつて債券はインデックス運用には向かないとされてきましたが、近年の電子取引の発達やETFの普及などにより流動性が改善し、インデックス運用できる余地が生まれてきたのです。言うまでもなく、従来主流だったアクティブ運用に比べて、インデックス運用のほうが運用コストを低く抑えられます。
また流動性拡大を契機に、各種債券のクオンツ運用にも取り組んでいます。これまでの債券投資は運用者の定性的判断に基づくジャッジメンタル運用が主流でしたが、クオンツ運用に転換することで運用コストを抑えつつ定量的かつシステマティックな投資判断ができるようになります。
具体的な戦略としては、インデックス運用をベースにしつつも投資適格社債の投資機会に着目して超過収益の獲得を目指す「システマティックアクティブ債券運用(SAFI)」という新たなスタイルの債券投資を始めました。クオンツ運用分野で長年実績のあるバークレイズQPSともパートナーシップを結んでおり、同社の知見を生かすことで、より信頼性の高い運用手法になっていると思います。
その他にも、かつて「インデックス化(複製)」が難しかったハイイールド債やバンクローンのインデックス運用戦略もローンチしており、力を入れております。運用コストを抑制しながら、取引コストの低減や効率的なポートフォリオ構築を通じてインデックスに対する付加価値を生み出し、投資家のニーズに応じた新たなベータ・ソリューションを提供しています。