マーサーでは毎年、今後数年間の市場テーマと投資機会を表すタイトルをグローバルで考えており、2024年は「アジリティの時代(An age of agility)」に決定しました。アジリティとはスポーツなどでよく用いられる言葉で、敏捷性や機敏性といった意味があります。投資家の皆さまに対し、これまで以上に機動的に運用していただきたいというメッセージを込めました。
なぜアジリティが重要なのかと言うと、今まさに市場環境がダイナミックな変化を遂げつつあるからです。変化を具体的に挙げると、時間軸の短い順に、➀各国金融政策の変更などに端を発する足元の「レジームチェンジ」、②通常の景気サイクルの2~3倍の長さで続く「スーパーサイクル」、③今後数十年間にわたって続くと見られる「メガトレンド」の3つがあります。
後編では、②スーパーサイクルと③メガトレンドについて取り上げます。
一般的な景気循環より数倍長いスーパーサイクル
数年程度で終わる通常の景気サイクルと比べ、2~3倍の長期間にわたって続くのがスーパーサイクルです。足元で起きているスーパーサイクルとしては、「インフレ」と「資金の貸し手・借り手の力関係の変化」という2つのテーマが挙げられます。[more]
1つ目のテーマであるインフレについては構造的な事象であり今後も続いていくと思います。これまでのインフレは主にサービス価格の上昇が支えてきましたが、今後は地政学的リスクの高まりや気候変動に伴う資源需要などを背景として、いわゆる「財」の価値が高まっていくと見られるためです。ChatGPTを始めとした生成AIの台頭により労働集約型産業などでディスインフレになるリスクはありますが、それを差し引いてもインフレは高止まりする可能性が高いでしょう。
投資妙味のある資産としては、不動産・インフラといったプライベートアセットや天然資源、インフレ連動債などが挙げられます。
続いてスーパーサイクルの2つ目のテーマである「資金の貸し手・借り手の力関係の変化」を取り上げます。従来の低金利環境は、「フリーマネー」と表現されることもあるように借り手有利な状況でした。しかし近年の金利上昇とともに、徐々にパワーバランスが貸し手側へと傾いてきているのが現状です。
貸し手側にパワーバランスが傾くと、投資家にはリスクとチャンスの両方がもたらされるでしょう。
まずリスクとなるのは企業の淘汰です。貸し手優位の状況とは、言うまでもなく借り手にとって資金調達コストが高まることを意味します。とりわけ従来のフリーマネーにより辛うじて存続してきたいわゆる「ゾンビ企業」にとって厳しい状況となるのは避けられないでしょう。
一方、先行き懸念があるときこそチャンスがあるとの見方もあります。例えば、ハイイールド債のスプレッドが広がりを見せるタイミングで、プライベートデットやクレジットオポチュニティなどのリターンが高くなるという調査結果が出ています。また市場混乱時にリターンを狙う方法として、クレジットを活用したヘッジファンドや、投資適格未満のクレジットに幅広く投資するマルチアセット・クレジットといった、各種クレジット戦略も検討に値するでしょう。