エグゼクティブ・エコノミスト
木内 登英氏
物価高の逆風が日本経済の下押し要因に
日本においては依然として、実質賃金(給与から物価変動の影響を除いた実際の購買力を示す指標)が下がり続けていることが大きな課題です。2026年の春闘で前年、前々年と同じく高水準となる賃上げ率5%超が実現したとしても、インフレ率の上昇などが足かせとなり実質賃金のプラス転化は難しいと思われます。特に労働組合がなく春闘に参加しない中小企業では厳しい状況が続くでしょう。実質賃金の低迷は個人消費の弱さを意味し、日本経済の下押し要因となっています。
実質賃金を上向かせるにはインフレ率の抑制が有効ですが、アベノミクスを継承する高市政権の政策はむしろ円安を助長し、輸入物価上昇に伴うインフレを促すなど弊害の多いものとなっています。特にアベノミクスの「第一の矢」である金融緩和が積極的過ぎたことによって足元の円安を招いてしまった点はもっと考慮されるべきでしょう。
アベノミクスとは毛色が異なる政策として高市政権が掲げる「政府投資の拡大」にも疑問符がつきます。安倍政権誕生以来、政府与党が推進してきた成長戦略は、企業が投資をする環境を整えることを大きな柱としていました。一方で高市政権の言う「政府投資」は、政府があらゆる投資戦略をリードする発想となりますが、一般的に民間の投資と比べると政府の投資は効率が悪いのです。
もっとも、経済政策における「高市カラー」は薄まっていくのではないかと見ています。その要因としては、①円安や長期金利上昇に伴う金融市場への副作用と物価高に対する国民の批判、②財政健全化や日銀の独立性遵守を基本とする連立パートナーの日本維新の会への配慮、③財政健全化や日銀の独立性遵守を支持し、高市政権の後ろ盾にもなっている自民党・麻生派への配慮、④円安を嫌う米トランプ政権への配慮などが挙げられるでしょう。
実際、当初は金融政策について高市氏は「政府が財政政策と並んで金融政策の方針も決めていく」という姿勢を見せていましたが、近時はそのような発言を控えています。その一因としては、2025年10月のトランプ氏訪日の際にベッセント財務長官から「アベノミクスが始まったころとは状況は変わっている」と、金融緩和を重視する政権運営に対してクギを刺されたことが挙げられるでしょう。