複数のデータを組み合わせれば新たな可能性が大きく広がる

――handsはファンドマネジャーなどに対し、どのようにして投資戦略のインサイトを提供しているのでしょうか。

塩谷 当社は現在6社のデータホルダーと連携しており、保有しているデータの種類は約3000種類、データの総数は約8兆にも及びます。その中でも、エム・データのTVメタデータをどう活用しているかについてご説明します。

まず、TVメタデータは随時集計されていますが、それを四半期ごとに変換し、放映されたCMの回数や秒数を、合計や平均などの形で「Peragaru」上で表示しています(図3)。

 

また、企業ごとに決算期が異なる場合がありますから、それに応じて自動的に集計ができる機能も提供しています。

当社は国内の運用会社だけではなくグローバルに情報提供を行っているのですが、特に海外の投資家は日本株をさほどカバーできていません。そうした運用者でも投資戦略にデータを生かしやすいように加工しているのが、データプロバイダーとしての当社の一義的な役割と言えるでしょう。こうした基本的な機能に加えて、TVメタデータに基づいた投資戦略へのインサイトも提供しています。

例えば、足元では米国金利上昇の影響で日本のグロース株が下落していますが(2023年12月時点)、金利上昇が落ち着けばグロース銘柄が再評価される局面になると期待する運用会社もあります。そうした運用会社に向けて、まずはテレビCMの放送実績データでカバーされているグロース銘柄の中から、SaaS(Software as a Service)企業に絞って割安なものを探し出します。

企業の決算書はPDFで公表されているケースが一般的ですから、画像解析ソフトを用いてKPIとなる重要指標や財務情報を分析しやすい形に抽出します。同時に、テレビCMが直近の四半期にどれだけ放送されたかというデータから広告宣伝費を割り出します。これらの情報を基に営業利益を算出し、株価上昇余地があると考えられる銘柄を発掘しています。

加えて、当社では企業の売上高を誤差7%程度で予測するモデルを開発しているのですが、これを踏まえてもう少し先の業績をレポートすることも可能で、ここでもやはりエム・データの力を借りています。

あまり規模の大きくない会社では広告宣伝費の割合が高くなりがちで、CM出稿が増えればそれだけ利益を圧迫してしまいます。そこでTVメタデータを用いれば、これまでの広告出稿実績に基づいて今後のマーケティング活動をある程度予測でき、それを当社の売上予想と掛け合わせることで、将来の決算をより早く推計できます。そうなれば、決算を待ってからアクションに移す他の投資家と比べて、アルファ獲得の余地が大きいと考えられます。

――handsはエム・データ以外のデータホルダーとも連携しているとのことですが、注目しているデータがあれば教えてください。

塩谷 当社では、連携中のデータホルダーとは異なる角度から独自でデータを使用しています。例えば、売り上げを推計する際には子会社の情報も取得しなければなりませんから、親会社と子会社をグルーピングした法人番号を保有しています。この情報を活用すれば、従業員の採用数や人件費も推測することができます。

また、先述のように当社はエム・データを含めて6社と連携していますが、これらのデータは組み合わせることで新たな発見につながる可能性を秘めています。

例えば、2023年9月に東芝データが提供する電子レシートサービス「スマートレシート®」とデータ連携を開始したのですが、この購買データとTVメタデータとの組み合わせについては特に注目しています。2つを組み合わせれば企業や商品のブランド力、競争力といった定性的で長期的な情報を計測できるのではないかという仮説を持っており、現在その検証作業を行っているところです。

これらのデータは単独で使用して短期的な業績を測るという、これまでのような使用方法ももちろん考えられます。しかし、その一方で組み合わせによる効果が実証されれば、ヘッジファンドのような短期目線の投資戦略だけでなく、長期的な視点に立つロングオンリーのファンドマネジャーにも、当社のインサイトを提供できるのではないかと考えています。