人海戦術でデータ化し ひと手間加えて運用に活用

――エム・データは、具体的にどのようにしてTVメタデータを収集しているのでしょうか。

薄井 100人以上の専門オペレーターを動員して、テレビの放送内容を365日24時間体制でチェックしています。データの中身は番組内容の要約からテロップ情報、登場した企業、出演者やトピック、放映時間などで、幅広い情報をテキスト化してデータベースにしていることが当社のデータの特徴です。最近では、番組内で紹介された商品、飲食店や観光スポットなどの情報も収集しています。

またテレビ番組だけでなくCMに関しても、企業や商品名はもちろん、どの放送局のどの番組で、何秒間、どんなタレントやBGM、キャッチコピー、ナレーションが使われていたのかといったことをデータ化しています。

こうした情報を表計算ソフトなどを使って分析するためには、列と行で分けて構造化しなければなりませんし、企業や商品の名称を統一して記述することも必要になります。ブランド名や企業名などはテレビで放送される際にバラツキがありますから、それをそのまま記録するのでは後々の分析が困難になります。そのため、集計時に細かくルールを設定し、テレビに登場する固有名詞はすべて統一しています。

こうした作業とともに、番組内で紹介された商品にJANコード(商品識別番号)などの情報を付与することで、活用の幅が格段に広がります。例えば、ある商品が紹介された番組の放映後にECサイトのトップページにその商品を表示したり、番組名や紹介したタレント名で検索するとその商品が上位に表示されるといった、他社との連携が素早く簡単にできるようになるわけです。

あるいは、緯度と経度の座標をTVメタデータに付与すれば、テレビで紹介された飲食店や観光スポットをマッピングできるようにもなります。それを地図アプリと共有すれば、テレビで紹介された店舗の検索や予約、ナビゲーションまでを集約することも可能になります。

――エム・データのデータは、運用の世界ではどのように活用されているのですか。

薄井 JANコードなどと同様に、TVメタデータに証券コードなどを付与すれば運用業界のオルタナティブデータとして活用ができます。その一例が当社の「TV-CM四季報」で、東証上場銘柄のCM出稿状況をサマリーしレポートにしています。銘柄ごとのCM出稿の増減率や前年比、前期比などのデータを分析できるほか、セクターごとのCM出稿実績をランキングすれば業界の趨勢を明らかにすることもできます(図1)。

 

また、テレビ番組やCMへの露出が増えることによって売り上げが伸びるのであれば、収益や株価にも寄与するのではないかという、素朴な疑問も生まれました。それを実際に検証したところ、テレビへの露出がシグナルの1つとして機能するという結果が得られました(図2)。このシグナルの勝率は約8割ですから、TVメタデータを運用の世界にも応用できるでしょう。

 

もっとも、当社が保有しているのはあくまで放送内容を記録したTVメタデータですから、実際にテレビ番組やCMによって視聴者や投資家がどのように行動したのかを分析することまではできません。そこで、視聴者数やWeb検索量、Webサイトのアクセス数、SNSの投稿量、決済データなどさまざまなデータを統合して、認知から購買に至るプロセスを紐解けないかと考えています。

また投資家向けには、業績や財務情報と連携して投資判断に対するより深いインサイトを提供できないかということも検討中で、例えばCMの放送量を時系列の変化で集計して、ブランド力やマーケティング活動の動向を示す指数の開発を構想しています。

とはいえ、これらのデータすべてを自社で保有しているわけではありませんし、運用業界でのさらなる活用を考えた場合には専門的な知識が必要です。データを扱う関連企業と幅広く連携する中で、オルタナティブデータを金融分野に落とし込むことができるhandsに協力を仰ぎ、2022年からコラボレーションが実現しました。