米国経済の行方 企業の過剰債務が鍵を握る
すでに下降基調にある中国経済と異なり、米国経済はまだ比較的安定しています。ただこの年末年始にかけての労働市場や年末商戦をめぐって慎重な見方が広がっており、2024年以降は減速を予測する声も出ている状況です。
2023年の第3四半期の成長率は予想外に上振れ夏場には長期金利もかなり上がりましたが、足元ではすでにその反動が顕在化しており、10‐12月期の成長率は現時点で1%台前半と急激に減速感が出てきています。この上年末商戦が空振りとなれば、場合によっては24年の年初からマイナス成長、景気後退という事態もあり得そうです。そうすると連邦準備制度理事会(FRB)は4月などに利下げに踏み切るかもしれません。加えて、欧州中央銀行(ECB)は24年に150bpくらいの利下げを織り込んでいます。このレベルの利下げとなればかなりのドル安・ユーロ高が進むでしょう。
2023年の米国経済が予想外に強かった背景のひとつには、個人債務の問題があまり深刻にならなかったという点が挙げられるでしょう。リーマンショックの時には不動産にレバレッジを効かせて投資していたことなどにより、個人債務のGDP比がかなり上がって実体経済や金融市場に悪影響を及ぼしました。しかし、その後は米国の個人が借金を抑えるようになったため、今では金利が上がってもすぐさま利払い負担が高まる事態には至らず、金利上昇に対する抵抗力が高くなっています。
ただ、問題となるのは企業の過剰債務です。米国ではリーマンショック後とコロナショック後の低金利環境で、主に信用力の低い企業が一気に債務を増やしました。これには銀行からの借り入れだけでなく社債の発行やファンドからの調達なども含まれます。米国経済の中でリスクになっているのは個人よりもむしろ企業であり、不動産で言えば住宅ではなく商業不動産といえるでしょう。
もっとも、2024年の米国経済が急激なリセッションとなるかどうかまではわかりません。パターンとしては1980年代から90年代にかけて貯蓄貸付組合が相次いで破綻に追い込まれた「S&L危機」に近いような形で、中小金融機関の破綻や不動産市場の低迷のもとに経済がゆるやかな調整に終わる可能性が考えられるでしょう。
以上のように中国経済と米国経済が今後つまずくような事態となれば世界経済にとっては逆風といえます。いずれも一気に悪くなるというよりは日本の失われた30年のようにゆるやかに悪化していく可能性が十分ありますが、世界経済の方向性としては下振れに固まってきているのが現状ではないかと思います。
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低調な見通しとなっているのは日本経済も例外ではなく、現状のままでは金融市場で取り沙汰されているような4月のマイナス金利解除は難しいと考えます。次回は日銀の早期の政策修正が困難な理由を解説します。