なくならない過当勧誘 証券会社に狙われる信用客

対面型の証券会社の場合、信用取引そのもののリスクだけでなく担当者にも注意する必要があります。高額取引が可能な信用取引は、たびたび「過当勧誘」が問題視されてきました。顧客の属性に照らし、不適切なほど高頻度・高額の取引を勧誘する行為です。

例えば以下の事例では、証券会社の担当者が主導し半年間で760回もの取引が行われました。取引のほとんどは新興市場銘柄や日々公表銘柄(※)など大きな値動きが予想される銘柄でした。短期間で売買を繰り返すため、あえて値動きの大きい銘柄を選んだと推測されます。

※日々公表銘柄:証券取引所が信用取引の残高を毎日公表する銘柄。投機的な値動きをしている銘柄など、ガイドライン基準に該当した銘柄で公表される。

事案は、小さな会社の60歳代の経営者(男性)が、平成29年6月〜11月の6ヶ月間に行われた信用取引で約4710万円の損害を被ったことについて、過当取引の違法を理由に不法行為を認め、さらに、担当者の個々の銘柄の取引に関する情報提供義務違反及び指導助言義務違反も認めた事件である……(略)……本件信用取引の取引回数(新規426回、決済334回、合計760回)、保有期間(日計り(※)約35%、3日以内が約7割)、買付総額(12億円4900万円余)から、短期、多数回、高額の売買が行われたといえる

※日計り(ひばかり):新たに建てた注文をその日のうちに決済すること。

引用:全国証券問題研究会 名古屋地裁 令和3年1月20日判決

1日に1回しか値段が付かない投資信託と異なり、株式は1日に何度も売買できる商品です。買いと売りの双方で手数料が見込めるため、頻繁に売買する顧客は証券会社にとってありがたい存在です。大きな金額で取引できる信用取引はなおさらで、担当者の手数料稼ぎにはより警戒しなければいけません。

信用取引は正しく理解すれば便利なツールです。しかし注意点も多く、初心者向きではありません。自分に必要か冷静に自問し、もしも信用取引に臨むなら無理のない金額で行うようにしましょう。

特に対面型の証券会社の場合、担当者のアドバイスをうのみにしてはいけません。自分でも必要な情報を集め、冷静に判断するようおすすめします。

文/若山卓也(わかやまFPサービス)