資産が減るほどに「引き出しの怖さ」が増す

もう1つは、年々資産が減っていくことへの恐怖感です。アンケート結果からわかった「資産水準が多いほど満足度が高くなる関係」は逆に考えると、資産が減っていくことで満足度が低下することも示唆しています。しかも一定の金額で引き出していくと、年々その恐怖感が加速するのではないでしょうか。

65歳で3000万円の預金資産があるとします。その段階で、月額10万円、年間120万円の取り崩しは、残高の4%ですから、それほど恐怖感をもたらさないかもしれません。しかし、毎年この金額が引き出されていくと、10年後には1800万円に残高が減っています。その時に120万円は残高の6.7%になります。

20年後には資産残高は600万円になり、年間120万円の引き出しは資産額の20%になります。

資産水準の減少とともに引き出しの負担は大きく感じるようになるわけで、これは資産の急激な減少による不安感につながります。

しかも人生の最後半で何か特別な支出を伴うことが起きたらどうしようと思うと、さらに「できるだけ使わないようにしなければ」という強迫観念が強くなる可能性が高まります。

退職後の資産運用を、現役時代と同じに考えてはいけない

さらに厄介なのは、そうした点を金融機関から指摘され、アドバイスと称して「資産運用をしませんか」という誘いに乗ってしまうことです。

特に現役時代に資産運用なんてやったことがない60代が、退職金などのまとまった資金が手元に入ることで、「投資でもやってみるか」「資産運用しないと長生きリスクが心配だ」といって、危険な運用に手を染めることです。最近、問題が指摘されている「仕組み債」といったハイリスク・ハイリターンの金融商品はそうした建付けで高齢者に販売されることが多いと聞きます。

そもそも、「退職してからの資産運用とはどういったものか」という考え方が、社会的に認知されていないように思います。退職後の資産運用は取り崩すことを前提にした資産運用ですから、現役時代と同じわけがありません。

長期・分散・積立投資が資産運用の金科玉条のごとくいわれ、それが退職後の資産運用にも適用されてしまっていることに、違和感を覚えています。

最も典型的なのが、毎月分配型の投資信託に対する認識ではないでしょうか。分配金を出すことはたこが自分の足を食べてしまう「たこ足」だと称して悪者扱いされてきましたが、そもそも取り崩しというものは元本も対象にして引き出していくことです。退職後の資産運用は上手な「たこ足」を行うことといってもいいものです。

投資元本をできるだけ複利で運用することが「取り崩し」を否定することにつながるのであれば、退職後の運用資産は取り崩せなくなってしまいます。もちろんみんながそう意識しているわけではないでしょうが、結果として「資産運用は現役世代のもの」という理屈になってしまっているように思います。とすると早急に、退職者のための資産運用をわかりやすくして、普及させていく必要があります。取り崩しを前提とした資産運用です。

●取り崩しを前提にした資産運用のアイデアとは? 第3回【老後資金の取り崩し…「定額」よりも「定率」のほうが圧倒的におすすめな理由】にて解説します。

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