同時期の賃金と物価の推移を見ると

――次に、1990年を100とした賃金と物価の推移を見てみよう。

(図1-11)賃金と物価のピークも1997年...?

太郎:名目賃金は1997年がピークで、そこから落ちていき、いまだにピークの数字には遠く及ばない。1997年をピークにして下落に転じた点は名目GDPの推移と一致しているね。

実質賃金は1996年がピークで、名目賃金よりもひどい落ち方だ。他方、物価は1998年にいったんピークを迎えて、2015年にそれを超えている。

ただ、17年間もピークを更新しなかったということか。そして、いずれの数字も1997年前後から下落が始まっている点は共通するね。

――1997年の金融危機が影響したことが、この推移からも読み取れるだろう。

ここでポイントなのは、90年代初めにバブルが崩壊してすぐに名目GDPが停滞したのではないということだ。バブル崩壊の後遺症で金融機関が破綻し始めた1997年より後に停滞が始まり、それがずっと尾を引き続けた。

太郎:金融機関がお金を貸すことによって経済が回っているから、その金融機関の貸し出す機能がダメになると、経済全体がダメになるということかな。

――それは失業率の推移を見ても分かる。

(図1-12)失業率も同じ年を起点に変化していた

太郎:バブル崩壊後から上昇基調になって、金融危機後に上昇角度が急になっているね。

――そうだ。バブルというのは要するに「貸しすぎ」が招く事態と言ってよい。お金を貸しすぎるから、それが株や不動産に流れて、価格が上がりすぎてしまう。

そして、いつか必ずバブルは弾ける。バブルが弾ければ、金融機関がお金を貸す機能が大きく落ちるから、経済は落ち込む。

1997年から始まった金融危機で日本経済は大きなダメージを受けたが、2008年に起きたリーマン・ショック前まではだんだん回復してきていた。それがリーマン・ショックによって世界同時大不況になったから、また落ち込んでしまった。

リーマン・ショックも、原因は日本のバブルと同じだ。要するに、お金の貸しすぎによって株や不動産の価格が本来あるべき水準より上がりすぎてしまい、それが暴落したので、貸したお金が返ってこなくなり、金融機関の破綻につながった。

あらゆる時代、あらゆる国でこのような現象は起きている。その理由はお金が生まれる仕組みを知るとより深く分かるから、次はそれについて説明しよう。

●第4回(大人なら知っておきたい! なぜ日銀が国債を買うと金利が操作されるのか)では、金融危機期の数値やデータから紐解く“経済停滞の実態”について解説します。

『データで見る日本経済の現在地 働くときに知っておきたい「自分ごと」のお金の話』

明石順平 著
発行所 大和書房
定価 1,760円(税込)