警察庁の「生活経済事犯の検挙状況等について」では、検挙状況や相談件数、被害額などのデータだけでなく、実際にどのような犯罪が行われたのか、いくつか事例が挙げられています。詐欺が行われる経緯を知るうえで参考になるので、興味のある方は一度目を通してみてください。

本連載では、今回から数回、令和4年に検挙された資産形成事犯の実例を挙げて、その背景、手口、だまされないためのポイントを考えてみたいと思います。今回は、「FX投資助言業に伴う金融商品取引法違反等事件」という事例を見ていきます。

無料副業セミナーで投資助言料を徴収する手口

「生活経済事犯の検挙状況等について」に書かれている内容は以下のとおりです。

元会社役員の男(42)らは、令和3年3月から令和4年3月までの間、FX取引の投資助言を行う有料の投資顧問契約の締結の勧誘が目的であることを隠匿して、副業に関する無料セミナーの開催に係るインターネット広告を掲示し、同セミナー申込者を公衆の出入りがない貸会議室等に誘引して同投資顧問契約の締結について勧誘し、契約者に虚偽の事業者名等を記載した書面を交付するとともに、同投資顧問契約に基づき、内閣総理大臣の登録を受けないで、SNSでFX取引の投資判断に関する助言を行い、全国の延べ約1万4000人と約19億円の投資顧問契約を締結した。
令和4年9月までに、同男ら25人を金融商品取引法違反(無登録営業)及び特定商取引法違反(目的隠匿誘引等)で検挙した(大阪)。

出所:警察庁生活安全局 生活経済対策管理官「生活経済事犯の検挙状況等について」(令和5年3月)

文章がかたいので、読みにくいと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、どういう手口かと言うと、まず「副業に関する無料セミナー」を装って広告を出して、それにつられて集まった人を、ひと気のない貸会議室に引き入れる。

そこで「FXの投資助言を受けます」という契約書にサインをさせたうえで、多額の投資助言料を徴収する、というものです。しかも、事業者名を偽って、契約者にサインさせたということです。

よくぞ、ここまでめちゃくちゃなことができたものだなと感心させられます。FXの投資顧問契約締結を持ち出された時、恐らく多くの人は「副業じゃないではないか」と反論したと思います。

しかし、「本業を持って働いているのだから、FXでお金を稼ぐのも、デリバリーで働くのも同じ副業です。むしろFXなら自宅に居て、隙間時間にパソコンの前に座っていればお金が稼げるのですから、効率の良い副業です。その稼ぎ方を教えるために投資顧問契約を結んでもらうのです」などと言って、けむに巻いたのではないでしょうか。

実態はどうかわかりませんが、それでもこの事件では、全国の延べ約1万4000人もの人たちが、約19億円にものぼる投資顧問契約を結んだとされています。

朝日新聞にはもっと詳しい記事が掲載されていました。昨年8月の記事ですが、どうやらFXの有償オンラインスクールの契約を迫ったそうで、1人あたり約40~60万円の入会金のほか、投資の助言を受ける追加の契約金として、165万円を求めたとされています。