企業型DCのマッチング拠出をやめてiDeCoを選択すべき?
【ケース1】Aさんの場合
・30代
・確定給付企業年金(DB)あり
・企業型DCあり:事業主掛金8,000円/月
・企業型DCマッチング拠出可能:拠出上限額8,000円※/月まで拠出中
Aさんは、企業型DCのマッチング拠出を続けるか、iDeCoの掛金拠出を始めるか、を迷っています。
ポイント1 掛金拠出の余裕があるかどうか
マッチング拠出もiDeCoへの掛金拠出も、所得税・住民税の所得控除が大きなメリットです。Aさんの場合、iDeCoの拠出限度額は1.2万円のため、マッチング拠出よりもiDeCoのほうが月4,000円、年間で4.8万円多く拠出できます。その結果としての節税効果は、iDeCoのほうが7,000円程度大きくなります(所得税5%、住民税10%の場合)。マッチング拠出の8,000円よりも多く拠出する余裕があるのであれば、iDeCoも選択肢となります。
ポイント2 コストから判断する
iDeCoは制度運営に関する手数料が本人負担です。一方、Aさんが勤務する企業では、企業型DCの各種手数料は事業主(会社)負担です。手数料面では企業型DCのほうにメリットがあります(iDeCoの手数料は金融機関によって異なりますが、野村のiDeCoの場合は月171円・税込)。また、手続き面でもiDeCoよりもマッチング拠出のほうが手軽です。マッチング拠出は、拠出時点で税のかからないお金として処理されているため、税の手続きをご自身で行う必要がありません。iDeCoは多くの企業で本人払い(銀行口座からの引き落とし)のため、税優遇のためには年末調整(もしくは確定申告)が必要です。一方、年末調整や確定申告により税の還付があるほうが「お得感」があるという考え方もあります。
ポイント3 将来的に企業型DC掛金が増えるかどうか
Aさんの現在の事業主掛金は8,000円ですが、勤続10年目以降は掛金額が1万円に上昇し、15年目以降は1.3万円に上昇します。そのため、将来的にはマッチング拠出できる金額の上昇が想定されます。
ポイント4 2024年12月の法律改正
DBのある企業にお勤めの場合、2024年12月の法律改正の影響も考慮しましょう。
2024年12月以降は、DC(企業型DC、iDeCoとも)の拠出限度額は他制度掛金相当額(DBの掛金相当額)が影響します。具体的には、5.5万円から他制度掛金相当額を引いた金額が拠出限度額となります。
Aさんが勤務する企業では他制度掛金相当額が4万円のため、DCの拠出限度額は1.5万円となります。ただし、企業型DCには経過措置があるため、経過措置の間は2.75万円が活用できます(経過措置は企業がDC・DBの給付に関する変更を行うと終了)。一方でiDeCoは経過措置の対象外のため、AさんがiDeCoに1.2万円を拠出できるのは2024年12月拠出(引き落とし)分までとなります。それ以降は、1.5万円から事業主掛金を引いた金額がiDeCoの拠出上限額となります。
※マッチング拠出(本人掛金)は、企業の負担する掛金(事業主掛金)以下、かつ本人掛金と事業主掛金をあわせて拠出限度額(DB有5.5万円、DB無27,500円いずれも月額)以下、という限定があります。そのため、Aさんの場合マッチング拠出の上限額は8,000円となります。
マッチング拠出は意外に使われていない?
マッチング拠出が可能な人は、企業型DC加入者の半数である389万人(企業型DC規約にマッチング拠出が定められている企業の加入者)ですが、実際に利用しているのは131万人です。これは活用可能な対象者の34%、全加入者数の17%にすぎません。マッチング拠出のメリットが十分に認識されていない、ということも想定されます。
なお、iDeCo加入者のうち会社員は150万人で、マッチング拠出利用者を上回っています(他の企業年金制度ありは28.5万人、他の企業年金制度なしは121万人)。