物価も給料も上がらない日本はある意味“驚異的”

この内と外を分ける見えない壁、内側の目を意識すること、慣性の高さなどを実感するもう1つが、日本とそれ以外の先進国のインフレ率の差です。他の国が7%、8%、9%というインフレを経験しているのに、日本はやっと3.8%(2023年3月の消費者物価指数/前年同月比)。

私は別にインフレ擁護者でもなんでもありませんが、ただインターネットでも物流・人流でもどんどんつながった世界にあって、日本だけインフレなし、物価も上がらないけど給料も上がらない……というのは驚くべきことだと思います。

日本はここ数十年、物価も値上がらず給料も増えずですが、日本の中だけで暮らすならそれでいいと思います。別に給料が増えなくても、生活費も増えないわけですから。

でも周りの国では、物価も給料も着実に上がっています。アメリカでは材料費や人件費など高くなったなら、すぐ値上げです。「すいませんが、コレコレの理由で値段は上げたくないのですが、上げざるを得ないのです。どうかお許しを」と謝罪する必要もありません。値段が上がって、給料も上がっていくという前提があるのだと思います

※ さらなる詳細は過去記事『値上げラッシュも“当たり前”なアメリカ―悲観しがちな日本との「根本的な違い」』をご参照ください。

日本の正社員の平均年収は508万円(国税庁 令和3年分 『民間給与実態統計調査』より)、「高収入」とは年収800万円以上が目安だそうですが、一方でアメリカでは2022年の大学新卒の全米平均給料が$55,260(743万円)でした。コンピュータサイエンス専攻なら新卒で$75,900(1,020万円)です。アメリカの大学新卒が日本の高収入レベルです。

$75,900(1,020万円)という数字は新卒にしてはすごい数字に見えますが、でもこの給料をもらってもシリコンバレーやマンハッタンに住むなら決して豪華な生活はできません。なぜなら、家賃も食費も高いからです。

アメリカは日本に比べて給料が高いというのは単なる一側面で、アメリカは日本に比べて給料も生活費も高い、つまりインフレがあるだけのことです。

私がアメリカの学生であった1990年代は、日本に帰国するたびに、アメリカのさまざまなものを買ってお土産に持っていきました。日本で買うと大変に高いものが、アメリカで買うと半額くらいで買えたからです。

それがいつの間にか逆転してしまいました。日本人としては、清潔できれいな自分の国で、おしゃれでおいしいものを破格の安さで食べたり楽しんだりできることが本当にうれしいですが、でもこの差、「本当にこのままでどうなるんだろう日本は……」とも思うのです。

世界というコミュニティの中に存在しつつ、日本ならではの独自性を守るのは、なかなか難しいことですね。