証券総合口座無料化の裏に株券の電子化

若い方はご存じないと思いますが、かつて証券会社の口座を持つには、口座管理料として年間3000円ぐらいの費用が掛かかりました。この費用がなくなった背景には、「株券の電子化」というデジタル化が大きく寄与したといわれます。昔は「株式」は紙で、各証券会社は顧客の株券を預かるために巨大な金庫を持っていました。野村証券は確か日本橋本店の地下に体育館並みの金庫があり、口座番号を入力するとお預かりしている株券が出てくる大型配送センターのような設備も兼ね備えたものだったそうです。

紙の株券は株主と証券会社にとって保管・管理、名義書き換えなどの手続きといった負担、さらには盗難や紛失のリスクがありました。外国人株主の外圧もあって1990年代に法整備が行われ、株券の電子化が推し進められました。2009年1月5日に、紙に印刷されたすべての上場株券が無効となり、証券会社の株券・保管コストは大幅に下がったのです。

このように、デジタル化することは費用と手間の逓減につながるのに、iDeCoではいまだ紙が多いのはなぜなのでしょうか。いろいろ理由はあると思うのですが、根底にはこれまでの手法を変えることで起きるかもしれないリスクを取れない金融機関ならではの慎重さ、言い方を買えれば臆病さがあると思います。金融機関はお金という信用を扱う生業なので、何事もなくて当たり前、何か問題が起きた場合には徹底的に非難されます。「変えた」ことが直接の原因でないとしても、その関連で起きうるトラブルでも非難を浴びることでしょう。

iDeCoも、菅政権が推し進めた「脱ハンコ」や、厚生労働省のリーダーシップのもと、加入手続きのWEB完結化など2021年1月以降少しずつ変わってはいるのですが、加入者数が300万人を超えた今、口座の管理や手続きのデジタル化について、本格的にスピードを上げて議論すべき時期に来ていると思います。

例えば、加入者情報や商品購入などの履歴情報の中で保管データの対象を絞り、保存年限の短縮などを法によって環境整備できれば、金融機関も安心して取り組めます。記録関連運営管理機関の運営コストが下がることは、加入者が一人増えるごとに赤字が増えている運営管理機関の逆ザヤ解消に役立ち、加入者へのサービスの向上・改善につながります。

噂では、記録関連運営管理機関のシステムの中には'80年代まで盛んに使われていたプログラム言語「COBOL」で書かれたものもあるとか。使いこなすことができるエンジニアも限られ、コストも拡張性も乏しいこのシステムは早晩、大幅に変えなければなりません。新しいシステムの検討が始まる前に未来につながる要件定義を急ぐべきだと思います。

併せて、記録関連運営管理機関だけでなく、国民年金基金連合会の加入資格の確認等の業務も、頻度とスピードをアップするような合理化・デジタル化を進めていただき、「信じられないほど時間がかかるiDeCoの手続き」という汚名を返上すべく努力していただきたいと思います。