百貨店の抱える2つの課題

では、行動制限が無くなったにもかかわらず、売上高が戻らないのはなぜでしょうか。理由はいくつか考えられそうです。

1.客層の課題

まず1つは、百貨店の客層の問題です。

百貨店の店頭に行き、そこで品定めをして商品を購入するという購買行動をとる客層は高齢者が中心と思われますが、現状は高齢者を中心に外出自粛の傾向が続いています。

高齢者の外出が減れば、その分消費が低迷します。日本国内においては、世帯主の年齢が60歳以上の高齢者層が個人消費の半分を占めると言われています。

ですので、高齢者層の外出自粛ムードが解けない限り、百貨店の売上がコロナ前と同じレベルに回復するのは難しいと考えられます。

2.構造的な課題

もうひとつの要因は、百貨店の構造的な問題です。

2022年1~12月の全国百貨店売上高を、2009年1~12月のそれと増減率を比較してみました。以下に示す増減率は、2022年の各月の全国百貨店売上高が、2009年の各月のそれに比べてどのくらい増減したかを計算した数値です。

2022年1月=▲38.82%
2022年2月=▲32.44%
2022年3月=▲25.65%
2022年4月=▲26.56%
2022年5月=▲24.06%
2022年6月=▲22.11%
2022年7月=▲29.01%
2022年8月=▲23.51%
2022年9月=▲19.93%
2022年10月=▲16.63%
2022年11月=▲16.73%
2022年12月=▲17.12%

さて、比較対象とした2009年がどういう年だったかは、覚えている方も多いと思います。まさに、2008年9月に米国の歴史ある投資銀行のリーマン・ブラザーズ・ホールディングスが破綻して世界的に金融不安が高まった「リーマンショック」の直後です。

日本では日経平均株価がバブル崩壊後の最安値を更新したのも、2009年の出来事でした。日本の国内景気は過去最悪の状態まで冷え込んでいたのです。

2022年1月以降、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐための行動制限がほとんど行われなくなったにもかかわらず、全国百貨店売上高の実数は、リーマンショックの直後よりも、さらに20~30%も落ち込んでいるのです。

この事実は、売上低迷はもはや新型コロナウイルスの後遺症という説明で済まされる状態ではなく、全国の百貨店が構造不況に陥っていることを示しています。

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経済統計を読む場合、直近のデータだけでは何も分からないことが多々あります。正確な実態を掴むために大事なことは、過去に遡ってデータの推移を知ることです。

今回、事例として取り上げた全国百貨店売上高に関しても、直近の数字だけを見れば。「百貨店業界は新型コロナウイルスの苦境からようやく立ち直ってきて絶好調だ」と見えますが、2009年からの時系列データをチェックすると、「リーマンショック直後の売上にさえ達していない、未曾有の危機」であることが分かります。

こうして見ると、データの見方を知っているかどうかで得られる情報の違いは、非常に大きいと言わざるを得ません。

一見、無味乾燥に思える経済統計の数字も、このようにさまざまな角度から見ると、面白い発見があります。基本的に統計の数字は嘘をつきません。この手の数字に親しんでデータを読み取れると、経済や投資が少しずつ面白く感じられるはずです。