そもそも「現行制度が続くほうがよほど大きな問題」
中嶋氏は改革案それぞれの話に入る前に、2つの前提を押さえておくべきだと指摘する。
1つは今回の炎上騒ぎにおいて、会社員の年金にも基礎年金が含まれているという事実が、多くの場合、抜け落ちていること。「会社員の年金は2階建て」が原則だ。
「会社員は現役時代、国民年金の保険料分 に報酬比例の保険料分が上乗せされた厚生年金保険料を払い、受給時は基礎年金と厚生年金を受け取ります。つまり、基礎年金は自営業者だけのものではなく、会社員の年金受給額にも直結するのです」(中嶋氏)。
例えば、「マクロ経済スライド調整期間の一致」に対する批判の声の1つとして、「会社員の厚生年金で自営業の基礎年金の赤字を埋めるのはおかしい」というものがあるが、これはまさに2階建て構造への理解が抜け落ちているがゆえの誤解と言える。
また国民年金・基礎年金は「定額型」、厚生年金は「報酬比例型」であることも、年金を理解するうえで欠かせない基本的なポイントだ。おさらいも兼ね、下図も参照されたい。
●会社員の公的年金は2階建て
2つ目の前提は、現行制度がすでに重大な問題点をはらんでいるということ。特に最大の問題点は、現行制度のまま放置すると、低所得の会社員ほど将来受け取れる年金の“目減り”度合が大きくなる点だ。
なぜそうした事態が起きるかについては次ページで解説するとして、収入の低い世帯ほど年金受給が不利になることは、年金の持つ所得の再分配機能※2が弱まることを意味する。「社会全体で見て、この問題をこのまま放置して平気な人がどれほどいるのかということです」(中嶋氏)。
だからこそ、「マクロ経済スライド調整期間の一致」は、低所得の会社員ほど年金が目減りするという事態を解決させる策として厚生労働省が提案しているわけだ。
※2 年金の「所得再分配機能」を解説
現役時代の収入が、年金受給に反映されすぎないこと。例えば、Aさんと、Aさんの2倍の年収を稼いできたBさんがいた場合、確かに年金の2階部分だけで見ると、AさんはBさんの半分しか受け取れない。しかし、定額部分の基礎年金があることで、年金額全体で見るとAさんの受給額はBさんの半分にはならず、むしろ半分よりも多くなる。これによって、社会全体の貧富の差が過度に広がらないようにしている。