問題解決が複雑化している

経済活動はすべて問題解決であり、あなたがどんな職業・職種につこうが、顧客の問題を発見・解決することであると理解していただけたと思います。ここで触れておきたいことは、とりわけ先進国のようにモノ自体が飽和した世界においては顧客の問題解決がより難しく、より複雑化しているということです。

扇風機という財を考えてみましょう。私の子供時代(70年代)は、自宅には当然エアコンなどはなかったので、顧客である私の問題は「少しでも涼しさを感じたい」という単純なものでした。扇風機はたとえ生暖かい風を送ってくれるものであったとしても非常に貴重で、扇風機のメーカーは「強い風を送る」という機能的価値に焦点を当てれば良かったと言えます。送風という機能自体に相応に価値を認めてもらえたので、メーカーはより安いコストで扇風機を作ることができれば利益を上げることが可能でした。だから、安く大量に生産するべく東南アジアに工場を移転して扇風機を作るという企業戦略を、どのメーカーもこぞって採用したのです。

ところがエアコンが普及した現在の日本では、顧客は扇風機の送風という機能的価値に対しては、あまりお金を払わなくなっています。せいぜい2、3000円といったところでしょうか。ところがダイソンの羽のない扇風機には4万円の対価を支払います。送風機能そのものよりも、羽のないスマートなデザインという意味的な部分に価値を見出すのです。モノがあふれる現在の先進国では、顧客の抱えた問題が「機能」という具体的かつ画一的なものから「意味」という抽象的かつ多様なものに移っているのです。

このように機能的価値が満たされた先進国において、顧客に意味的価値を提供することは簡単なことではありません。なぜなら顧客自身が自らのニーズを把握していないことが多いからです。このような意味的価値の世界では、顧客の問題は「解決」する前にまず「発見」しなければなりません。顧客自身も気づいていない問題を発見しようというのですから、非常に困難かつ複雑なプロセスです。顧客の問題を発見し、解決するには、自分の仕事や顧客のビジネスモデル、属する産業の構造を熟知しなければなりません。その第一歩は、顧客を観察し、顧客について知ることです。先進国で成功している高収益企業の多くが顧客との直接的な接点を重視するダイレクトセールスモデルを採っていることは決して偶然ではないのです。

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