4000億円ものお金を動かす、日本屈指のカリスマファンドマネージャー、奥野一成氏。奥野氏によれば、日本人にもっとも欠けているのが「インベスターシンキング(投資家の思考法)」。
身に付ければ、本当に強い企業を見抜けるようになり、投資家として成功できるのはもちろん、自身がビジネスで提供しているものの価値をより深く分かるようになるため、ビジネスパーソンとしても抜きん出ることができると言います。
そんな奥野氏が、どのように企業の価値を見定めているのかを余すところなく解説したのが、話題の書籍『ビジネスエリートになるための投資家の思考法』です。
今回は特別に、インベスターズシンキングを身に付けるうえで理解すべき「お金の本質」について解説した、第1章の一部を特別に公開(前後編の前編)。
※本稿は奥野一成著『ビジネスエリートになるための投資家の思考法』(ダイヤモンド社)の一部を再編集したものです。
あなたの顧客は誰ですか?
あなたの顧客は誰で、あなたが売っているものは何でしょうか?
営業職の方であれば、取引先の課長の顔が浮かぶかもしれません。一方で、「私は経理だから関係ない」という人もいるでしょう。
しかし、これは営業職だからとか経理だからとかは全く関係なく、すべてのビジネスパーソンが考えるべき問いです。といっても、身構えて難しく考える必要はありません。まず目を閉じて昨日の仕事中に会った人を思い出してください、その人とどんな会話をしたかを思い浮かべてください。
例えばあなたがバルブの営業担当者であれば、取引先の課長に自社のバルブカタログを見せて説明している光景が浮かぶかもしれません。この時に、「労働者1.0」の営業担当者は、「バルブ」を買ってもらうべくとにかく「お願い」することを優先しがちです。相手は他のバルブメーカーの担当者からも「お願い」されているため、「安い値段を提示してくれた方から買おう」という話にしかなりません。
ここで考えてほしいのは、「あなたの売ろうとしているバルブが、取引先が抱えているどんな問題をどう解決するか」ということです。これに一定の答えをだそうとすれば、取引先のビジネスそのものに対する知見が必要になります。取引先のビジネスプロセスを観察し、その課題は何かを考えて、改善に向けたアイデアを提案していくことになります。
例えば、顧客の工場で作業員のバルブの閉め忘れにより度々原料ロスが起こっていることがわかれば、一定時間経過後に自動的に閉まるバルブを提案すれば良いのです。論点はバルブの値段から、いかに原料ロスを小さくするかに移ります。それを議論していくうちに、必ず取引先からは課長ではなく部長、あるいは購買部ではなく製造部の責任者が出てくるようになります。あなたの顧客は既に取引先の「課長」だけではないのです。
顧客の問題に接しているうちに、自社のバルブの問題点・改善点も見えてきます。自社バルブの改善案を開発部門に提案することができれば、さらにあなたの営業担当としての付加価値は高まります。顧客は取引先だけでもないのです。