相談の目的の1つ「教育費」問題が明らかになった理由
先述の通り、優子さんが希望したのは、子どもの教育費と老後資金にまつわる相談でした。
そのきっかけは、仁さんから楓さんの教育費を援助して欲しいと頼まれたこと。高校3年生の楓さんは東京の美術大学に進学希望で、4年間の学費だけでも700万円ほどかかる見込みです。それに加えて都内で下宿するための仕送りも必要になります。
けれども仁さん自身には蓄えはほとんどなく、楓さんが大学に合格しても学費や下宿のお金が払えないとのこと。
実は楓さんが地元の美大進学の予備校に通う費用を、仁さんは多美さんにお願いして出してもらっていました。さすがに大学の学費まで出してくれとは言いにくく、優子さんを頼ってきたようです。
田所家の家計は、会社員2人の給与収入と多美さんの年金収入から成り立っています。支出は“なんとなく”それぞれが役割分担をしてきたと言います。生活費・住宅ローンや楓さんの教育費は仁さん、真くんの教育費は優子さん、食費は多美さん……というような大雑把なわけ方です。全体がどうなっているかは誰にも分かりません。優子さんも「余ったお金があったら、各自で貯蓄しているのだろう」くらいに思っていたそうです。
何より優子さん自身が、仕事と家事、子育てとあまりに忙しかったため、その“なんとなく”に触れずにきたと言います。
「最初、主人から学費の話を聞いたときは『えっ!?』って……しばらく言葉が出ませんでした。お恥ずかしいのですが、まさか主人に蓄えがないとは思わなくて……」
と、優子さんは肩を落としました。
「正直に言うと、楓の学費分は私の手元のお金(約1500万円)でなんとかなります。でも、これは私が貯めてきたお金と親から相続したお金です。ずっと、真の教育費として使うつもりでした。真が大学に行く頃には私は定年退職してしまうかもしれないので、今のうちに準備しておかなくてはならないと思っていたのです」
優子さんのお話は続きます。
「田所家は地元では由緒ある、それなりの資産家なので、主人はあまりお金の苦労をしてきませんでした。何かあると義母を頼っていたし、義母も主人には甘かったのです。だから『どうしても』とお願いすれば、楓の大学のお金も義母が出してくれるのではないかと思います」
つまり、優子さんとしては「自分をあてにしないでほしい」ということ。この部分に関しては、ご家族でよく話し合ってもらうしかありません。
しかし、大学進学がきっかけとなって「お互いの財布の中身が分からない」問題が顕在化したのですから、この問題を放置せず、将来に向けてのマネープランを夫婦で共有する必要があります。
高齢で子どもを授かった家庭では子どもの教育費がかかるピークと、親がセカンドライフに入るタイミングが重なることがよくあります。だからこそ、より念入りに教育費と老後資金準備について、計画を立てておかなければならないのです。