緊張感みなぎる販売強化月としての11月

「生命保険の月」である11月は、生命保険の販売強化月間でもある。生命保険会社で一時期とはいえ営業所長を経験した筆者にとって、年に数回ある販売強化月間のうちでも、11月の緊迫感には忘れがたいものがある。

販売高の基準は平月より高く設定され、その完遂に向け全社が一丸となる月間だ。個人別の目標達成はもとより、営業所別あるいはその上部組織である支社別に実施される対抗戦もあり、その勝利に向け全員が結集したものだ。

体調がやや不調でも、弱音を吐かずに目標達成に専念する先輩の姿に、入社間もない営業員(当時はセールスパーソンを営業員と呼称)も感化され、顧客訪問に精を出すことになる。

当然のことながら、生命保険の意義を互いに再確認する月でもある。保険を勧める個々のお客のライフサイクルに基づいた、最適の保険種類・保険金額であるかどうかを、指導者と営業員が再チェックすることも多くなる。提案する設計書が適切に作成されているかについて何度もチェックをする習慣づくりの好機でもあった。

当時は、プライバシー問題も大きな課題となる前であり、自社の顧客ではない、いわゆる「白地の家庭」へ予告なしに訪問する飛び込み訪問の全盛期でもあった。専業主婦が大半の時代であり、ほとんどの家庭に主婦がいたものだ。そこを狙い、ある特定地域を集団で訪問し、指導者の指揮のもと次々と全ての家庭へ各営業員が飛び込み訪問をする。この活動を通して、営業員としての覚悟や自覚が養成された面もある。生命保険の月にこそ、この活動を活発化させる指導者もいた。

もちろん、この飛び込み訪問でも成果は出る。大体の初回訪問は「一緒に働きませんか」という話法で始めるが、何度か訪問するうちにお互いの心の壁が取れ、保険契約の話にまで発展することが多い。当社の顧客でない妊娠中の主婦を初めて訪問した営業員が、その主婦が出産した子が廊下を走り回る時期になって、やっと契約の成立にこぎ着けたこともあった。