ある高校受験を控える親子が直面する「国語の長文読解」の壁

2022年6月、東京都内の大手進学塾に通う中学2年生の親がオンライン上で担当講師と向き合った。息子の高校受験での志望先は最難関の私立高校で、塾の最上位クラスで学んでいる。

講師は保護者面談の冒頭、毎月の学習状況を確認する定期テストの結果に触れて「英語の点数は申し分ない。数学も少し頑張れば十分合格圏内に入る。しかし、国語はかなり力を入れなければ難しいと言えます」と厳しい表情を見せた。

学校での成績は上位にある。息子はもちろん、親も国語の点数はそれほど重視してこなかった。その理由は「英語の長文読解は十分にできている。日本人なんだから、日本語の問題なんて、ちょっと勉強すれば点数がすぐに上がる」と高をくくっていたためだ。

国公立も視野に入れると、今まで以上に理科や社会の学習も必要になる。それを考えれば、とてもではないが国語に時間を割くことはできない。進学塾で配られる漢字プリントや読解問題だけに頼る時間が続いた。

「インターネットでニュースをチェックしているし、ブログもたくさん読んでいる。学校や塾でも国語は学んでいる。やる気になれば、国語はいつでもできる」。

そのように考えてから半年あまりが経過した。だが、漢字や四字熟語、ことわざといった覚えさえすれば解ける問題は得意になっても、長文読解で主人公の心境や意図などを問う設問では点数を上げることができなかった。

受験本番まで約1年半、親子の焦りは増すばかりだ。

AIに負けない「デジタル勝者」を育てるために必要なこと

ここで一つの調査をご覧いただきたい。経済協力開発機構(OECD)が義務教育修了段階の15歳を対象に2000年から原則3年ごとに実施している「学習到達度調査」だ。注目すべき点は、やはり「読解力」の問題である。

2018年の調査で、日本は加盟37ヵ国のうち「数学的リテラシー」の平均得点で1位、「科学的リテラシー」も2位と世界トップレベルだった。しかし、「読解力」は異なる。平均得点は前回の2015年調査から低下し、加盟国中11位にとどまった。テキストから情報を探し出す問題や、自分の考えを他者に伝わるように根拠を示して説明することに課題があることがわかる。

とりわけ、「情報を探し出す」力や「評価し、熟考する」力の平均得点は低下傾向にあり、2018年調査から追加された「矛盾を見つけて対処する」問題の正答率も低かった。総じて言えることは、「活用」する能力に課題があるということだ。これは、新井氏が指摘している暗記することは得意であるものの、AIも不得意とする「非定型」の文章理解は苦手であるという部分と共通する。

つまり、大量の情報と接するデジタル時代の日本の子供たちは、情報から次から次へ「処理」しているように見えるものの、そこから評価したり、熟考したり、矛盾を見つけて対処したりといった「活用」に問題がある。いずれも読解力の根幹をなす部分であり、フェイクニュースや不要なトラブルに巻き込まれないために必要な部分である。