年金運用では経験できない投資信託運用のダイナミズム

2000年代の初頭、外資系金融機関の在日支店で不祥事が起こり、金融庁によるプライベートバンク業務に対する規制が厳しくなりました。私は、これでは日本でプライベートバンク業務を行うのは無理かも知れないと考えるようになり、ひとまずプライベートバンカーを辞める決断をしました。

ところが、それと同時にピクテ投信投資顧問の商品開発担当者が辞めることになり、後任を探していたところ、私がプライベートバンカーを辞めると言い出したことに加え、ニューヨーク時代にヘッジファンド運用モデルを作っていた経緯も知られていたため、いきなり商品開発担当者に任命されたのです。

これが、結構面白かったことを覚えています。自分で独自に新興国国債のプライシングモデルを作って計算したところ、ドル建て新興国国債の価格形成に異常値が見られたのです。2001年にアルゼンチンがデフォルトを起した経緯から、あらゆる新興国国債が、マーケットで叩き売られていました。

それこそ通常であれば、8%程度の利回りが適正水準のところ、11%くらいで取引されていたのです。つまり、新興国国債がそのくらい割安に放置されていたのです。それと同時に、新興国の株式も割安でした。当然、この手の割安に放置されているものに投資しておけば、どこかの時点で価格が正常値に修正される段階で大きな利益を得ることができます。

ただ、年金運用は比較的保守的な、ルールベースでの運用が行われていたため、ポートフォリオのなかに、この手の割安に放置されている債券や株式を組み入れたくても、厳密に決められた投資比率の範囲内でしか組み入れることが出来ませんでした。

これに対して投資信託は、当時、銀行での窓口販売が行われ、ファンドも徐々に増えてきた時代だったので、ダイナミズムがありました。商品開発という点では、年金運用よりも投資信託の方が自由度は高く、かつ新しいものにチャレンジできる素地があったのです。