低コストだから支持を集めているという誤解

「1兆円ファンド」とその歴史についてはこのくらいにして、ここからは「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」がこれほどまでに支持を集めている背景について、ファンドアナリストとして、また、販売会社に身を置く立場として、筆者なりの見解を説明していきたい。というのも、当ファンドを巡っては、実に多くの誤解があると感じているためだ。

まず「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」の大ヒットを後押しした要素は、以下の3点に集約される。

①積立(含むつみたてNISA)
②ミレニアル・Z世代
③SNS・YouTube

この時点で「『低コスト』が含まれていないのでは」と直感的に思った方は、情報を最新の内容にアップデートしたほうがよいかもしれない。確かに、当ファンドが設定された2018年7月当時、コスト=信託報酬率は商品選別を行う上で重要な要素であった。

しかし、類似の低コストインデックスファンドがシリーズ単位で次々に設定されるにつれ、ファンド間のコストの差は縮小しており、今やインデックスファンドでコストが安いのは当たり前というのが共通認識となっている。2019年9月には、「Slim 米国株式」よりもさらに信託報酬の低い「SBI・V・S&P500インデックス・ファンド」が登場したが、約1年のリードタイムで「Slim 米国株式」が獲得してきた積立額と知名度の差はやはり大きい。

もし「低コスト」が最大の差別化要因になるなら、2020年3月設定の「野村スリーゼロ先進国株式投信」にもっと注目が集まってもよいはずだ。同ファンドは積立専用で、運用開始後約10年(2030年12月31日まで)の信託報酬率を0%とする点が最大のポイントなのだが、この2年で積み上げた残高は約35億円に過ぎない。ともあれ、極限まで縮小した信託報酬率の水準にかつてほどのニュースバリューがないことは確かと言えそうだ。