人種で奨学金が出ることも…アメリカの奨学金事情
金銭援助としての奨学金は、その援助の必要性を測るための公式があって、家庭の収入や資産などの情報を使って援助の必要性を計算します。州立大学では年収$100,000を超えれば、年収が十分とされ援助の必要なしとなります。ただ、援助の必要性というのは、学費が高ければ高いほどその必要性も高くなるので、アイビーリークのように年間の学費(授業料と寮費/食費などのトータルコスト)が$75,000であれば、かなり収入が高い家計でも経済援助の必要性が高くなります。よって、年収$200,000レベルでも金銭援助の奨学金が出ることもあります。
アイビーのようなトップ大学などは、成績が基準にかない合格したのなら、金銭援助の必要があればそれを100%満たす=つまり必要分は大学が奨学金としてカバーするとうたっているところもあります。家庭がそれほど裕福ではなくても、成績がよくて合格できるなら一番おいしい道かもしれません。
とはいうものの現実は異なっているという事実もあるようで、昨今では、ブラウン大学、コロンビア大学 、イェール大学、コーネル大学、マサチューセッツ工科大学、カリフォルニア工科大学などを含む全米のエリート16大学が、学生の学力や成績だけではなく、その家庭がどのくらい支払い能力があるかという点を入学基準として考慮しており、富裕層や過去の寄付者、将来的な寄付の可能性のある家庭を優先させて入学させていたという疑いで訴えられるということがありました。大学間のカルテル的な連携により奨学金の内容や額を調整しあって、価格低下競争を避けていたというようなことがあったそうで、結果として17万人以上の学生にオーバーチャージがあったとされています。このような「できるだけ優秀な学生を確保しながらも、できるだけ授業料やその他費用を徴収し利益を最大化する」ための手法はエンロールメント・マネージメント(合格者/入学者マネージメント)と呼ばれます。大学はあくまでビジネスであるということを思わせます。
もう1つの資質での奨学金は、家庭の経済状況などは全く考慮せず、その学生の資質のみで出る奨学金で、主に私立大学で提供されます。成績、音楽やスポーツなどの特技、社会活動などが考慮されるものもありますが、一方で人種、居住州などで奨学金がおりることもあります。たとえばバーモント州(東海岸の北のほうの比較的白人が多い州)の大学に、カリフォルニア州の都市部からアジア系の学生が行こうとしている場合などは、その希少価値がゆえに奨学金が出たりすることもあります。よって、何かに秀でないと受けられない奨学金がある一方で、特にそういった努力なしでも案外簡単に受けられる奨学金もあります。アメリカは大学でも企業でも、とにかくダイバーシティ(多様性)ということがうるさいほど叫ばれているので、さまざまな人的要素や資質をもった学生がバランスよく存在するよう大学側は躍起になって努めるのです。大学のレベルがトップ校からだんだんと下がるにつれて、この資質での奨学金はもらいやすくなります。この資質での奨学金は、主に私立大学で大学側が「欲しい学生」を集めるツール的にも使われていて、正規価格は同じでも欲しい学生には多くの奨学金を出し、それほど欲しくないけどお金を払ってくれるなら入学させてもいい学生には奨学金は出さない……というような調整がなされます。
そんなこんなで、正規価格はかなり高くとも、みんながフルプライスを払っているかというと、そうではないわけです。ちょっと古いデータですが、2015年の全米411の私立大学に関する調査によると、平均で学生が払うトータル費用は正規価格の約半分という結果でした。冒頭のデータでは私立大学の全米平均トータル費用は$51,690ですが、実際家庭が支払う費用はざっと$26,000という感じになります。