投資の入門には有効な小口投資だが、有効な資産形成とはいかない…

では、万難を排して普及への道のりが開けたとしましょう。それによって投資のハードルは下がると思われますが、問題は資産形成につながるのかどうか、ということです。それは、今回の実証実験で行われた「リアルおつり投資」を通じた小口投資だけでなく、すでにサービスとして提供されている他の小口投資手段にも当てはまる話です。

確かに小口投資は、誰でも手軽に投資に馴染むためのきっかけを与えてくれます。なぜなら、損をした時の精神的なダメージが小さくて済むからです。極端な比較事例になりますが、1000万円を投資して40%の損失を被ると、損失額は400万円になりますが、同じ40%の損失でも投資金額が1000円なら損失額は400円です。さすがに400万円の損失額は頭を抱えてしまうでしょうが、400円の損失額ならそれほど腹も痛まないはずです。基本的に、投資に手を出さない人の多くは、損をするのが嫌なわけですから、40%の値下がりでも損失額が400円で済むという点が、大きな安心感につながっているのです。

でも、損失額が小さいということは、逆に言えばリターンも小さいことになります。仮に毎月1000円ずつを30年間投資して、年平均7%で運用できたとしましょう。30年後にいくらになっていると思いますか。

答えは121万9971円です。毎月1000円を30年間積み立てた場合の積立元本は36万円ですから、それが121万9971円になるのは確かに利益率からすると大したものではあるのですが、ここは率ではなく絶対値で考えて欲しいと思います。

老後に121万9971円があったとしても、確かにゼロよりはマシですが、恐らく何の役にも立たない金額です。ある程度、老後を豊かに暮らすためには、公的年金(それも国民年金ではなく厚生年金)を受け取ることを前提にしたうえで、さらに2000万円以上の貯蓄が必要と言われているくらいですから、30年もかけてこの程度の資産形成では、焼け石に水なのです。

つまり小口投資で「資産形成」をしている気になってはいけない、ということです。もちろん、資産形成を始めるきっかけとして、この手の小口投資を活用することを否定するつもりはありません。ただ、老後の自分の生活を支えるための資産形成を目指すのであれば、取っ掛かりの積立金額は1000円でも、なるべく早い段階でそれを1万円に引き上げ、その後も段階的に3万円→5万円→10万円というように増やしていかないと、本当の意味での資産形成は出来ないのです。

「ポイ活」のひとつとしてポイント投資が注目を集めている昨今ですが、それは単なる投資を始めるきっかけであり、本当の資産形成はもっとしっかり毎月、ある程度まとまった資金を積み立てる必要があるということを、理解しておく必要があります。