DC口座は企業型、個人型を併せてひとり1口座に限定されていた

制度スタート時、「DCはひとり1口座」が原則でした。そのため、転職等で企業型DCを実施している企業に入社が決まると、それまで保有していた個人型DC口座は解約し、企業型DCに資産を移す手続きが必須となっていました。そこで、転職者を受け入れる側の、企業型DC実施企業の担当者は、以前は、中途入社してくる人に必ず「移換」の手続きを伝える必要がありました。

とはいえ、制度がスタートして10年経っていない2000年代、企業型DCの担当者にヒアリングすると「移換の手続きはまだやったことがない」というケースが多かったのも事実です。というのも、2000年代のはじめのころは、企業型DCの加入者数は200万人に届かず、厚生年金被保険者の5~6%にとどまっていたためです。

2010年代になると、企業型DC担当者から「来月、入社する人が前の会社で企業型DCを利用していたというので、手続きを教えてほしい」というお問い合わせが入るようになりました。2010年当時の企業型DCの加入者数は、300万人程度。厚生年金被保険者数の1割程度を占めるまでに増加してきていました。

当時のことを記憶する企業型DC担当者は「DCは一人1口座」と認識されていて、中途入社者から「DCをやっていた」と聞くと、かならず企業型DCから企業型DCへの移換手続き、というルーチンができていたようです。一方で、当時の個人型DCは「iDeCo」の愛称が付く前ということもあり、まだまだマイナーな存在でした。

2010年3月末の個人型DCの加入者数は11万人、運用指図者数は19万人程度です。個人型DCは、スタート当初こそ加入者数が運用指図者数を上回っていましたが、徐々に運用指図者数が増加しました。
※新たな掛金を拠出せずに、すでに拠出した掛金だけを運用している人

個人型DCの運用指図者数が増えた理由は二つあります。一つは、個人型DCの普及率が低く、その魅力(税制優遇等)があまり浸透していなかったために、とりあえず企業型DCから資産移換だけをする、という行動をとる人が多かったことです。

もう一つは、当時、個人型DC加入者になるための制限が厳しかった点があります。つまり、個人型DCの「加入者」になれない会社員が多かったのです。企業型DCのある企業を退職して公務員や専業主フになったり、他の企業年金制度がある企業に転職したりすると、毎月の掛金を拠出する「加入者」が選択できませんでした。

その状況を示すものとして、2004年3月に公表された個人型確定拠出年金実態アンケート調査があります。運用指図者になった理由として最も多かったのは「加入資格がないから」で、46%を占めていました。