多岐に及ぶ「社会」のテーマを体系的に整理するカギは?

――「社会」分野の課題といえば、人材多様化の取り組みが先行しているようですが、コロナ禍によって人々の働き方やサプライチェーンなど新たな課題も次々と浮き彫りになりました。世界的にはどのような注目テーマがありますか?

まず人材多様化については、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)という概念が近年、世界的に浸透してきました。これは、企業に求められるダイバーシティとは、性別や年齢、国籍、宗教など、さまざまなバックグラウンドを持つ人材を尊重したうえで、インクルージョン(受容、包摂)していくことが重要、という発想です。

加えて最近は、D&Iから先に進んだ「DEI」というコンセプトが注目をされています。

――「DEI」という言葉を初めて聞きました。詳しく教えていただけますか。

従来のダイバーシティ(D)とインクルージョン(I)を前提として、その上で一人ひとりが能力を発揮できる公平な仕組みを導入すべきだ、という考え方です。DEIの「E」は、公平という意味の「Equity」のことですね。

あえてEquity という言葉を使っている理由は、「Equality(平等)」との違いを強調するためです。例えば、あるグループに自転車を提供する場合、同じ大きさの同型の自転車を供与することは、たしかに「平等」ではありますが、「公平」ではありません。身長の高い人もいれば、子供もいますし、身体が不自由な人もいるかもしれません。真に公平を期すなら、乗る人の身体的特徴に即したサイズやモデルの自転車を提供することが必要になります。

こうした個人の多様性を考慮し、公平になる仕組みやツールの提供がDEIでは必要です。DEI を理解し、採り入れることは、人材を「資本」としてその価値を最大限に引き出す、人的資本経営にもつながります。さらに、企業の収益力や成長力、効率性といった企業価値を向上に資することになるでしょう。

―― 一つひとつ課題を個別に理解することができても、多岐に及ぶ「社会」の課題をESG投資の中で体系的に整理することは難しそうです。何か良い整理方法はありませんか?

2021年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コードでは、上場企業に対して、人的資本への投資に関する情報開示を求めており、中心的なテーマになりつつあります。このことからもわかるとおり、人的資本という視点で、ある程度は包括することができるでしょう。

人的資本情報を俯瞰する際、2021年11月に経済産業省が公表した『サステナビリティ関連情報開示と企業価値創造の好循環に向けて』というレポートの中にわかりやすい解説があります(図2)。

 

人的資本情報を、「価値向上」と「リスクマネジメント」の2つの観点で整理していて、例えばダイバーシティは、価値向上のウェイトがやや重いものの、リスクマネジメントの側面も少なくない、など、成長要因とリスク要因をそれぞれ対極に位置づけて各要因をプロットしています。