サステナブルという言葉の陰に隠れたリスクを把握すべき

このレポートでもうひとつ気になる点があります。それは「個人向けインパクトインベストメント債券の国内販売実績」の数字です。

インパクトインベストメントとは、社会貢献と投資リターンの料率を目指す投資のことです。インパクトインベストメント債券は、世界銀行や国際金融公社、北欧投資銀行、アジア開発銀行といった国際機関や、民間金融機関などが途上国支援のために必要な事業資金を集めるために発行した債券のことです。この手の債券を個人が購入すれば、その資金が世界中の支援を必要としているところに配分されるという仕組みになっています。

たとえば資金使途を見ると、「開発途上国の子供達にワクチンを提供」とか、「マイクロファイナンス機関への投融資」、「環境関連プロジェクトに融資」、「アジア・太平洋地域における水関連事業を支援」というように、まさにサステナブルな世界を創るために必要な資金を集めているというお題目が唱えられています。

それはもちろん必要なことなのですが、個人が実際にこの手のインパクトインベストメント債券に投資する際には、リスク要因をしっかり把握しておく必要があります。社会貢献がお題目になると、多くの人は心のどこかで「社会貢献のための投資なのだから、少なくともハイリスクな案件ではないだろう」と思い込んだりしてしまいがちですが、そんなことはありません。詳細に商品内容を見ると、かなりリスクの高い投資案件であることがわかります。

最大のリスクは何といっても為替リスクです。この手の債券の通貨建てを見ると分かりますが、ブラジルレアル、トルコリラ、南ア・ランド、ロシアルーブル、メキシコペソ、インドルピーなど新興国通貨建てのものが大半を占めています。なぜ新興国通貨建てが多いのかというと、その方が高い利率を提示できるからです。

しかし、高い利率の裏には高いリスクがあることを忘れてはいけません。利率の高い通貨国はインフレの国ですから、基本的に通貨価値は減価していきます。ちなみに2018年、「環境にやさしい経済・社会の発展に貢献する企業・プロジェクトへの融資」をお題目にしたグリーンボンドが、トルコリラ建てで発行され、償還までの期間3年で、年利率11.71%が提示されました。この債券の受渡日である2018年1月のトルコリラ/円は、1トルコリラ=30円前後でしたが、それから3年が経過した2021年1月時点では、1トルコリラ=13円前後までトルコリラ安・円高が進みました。率にして、トルコリラは対円で57%も減価したことになります。この間、年11.71%の利息を受け取れたとしても、完全な元本割れです。

サステナブル投資は何となく聞こえが良く、ハイリスクのイメージからも遠いのですが、決してそんなことはありません。サステナブル、SDGs、ESGといった言葉のイメージに胡麻化されることなく、投資対象の持つリスクをしっかり把握したうえで、投資するかどうかを判断することが肝心です。