車の電動化で欧州勢の存在感が増している。脱炭素化・カーボンニュートラル化への流れが急加速する中で、EU(欧州連合)は世界に先駆けて環境規制を強化し、電気自動車(EV)の普及を推進していく考えだ。欧州の自動車メーカーもこの流れに追従し、欧州だけでなくグローバル市場で主導権を握ろうとマーケットシェアの拡大を狙う。ただ、実用性を伴ったより高性能なEVの開発には莫大な投資が必要とされ、普及は一筋縄ではいかない。資金調達でトレンドとなっているESG(環境・社会・企業統治)投資との関係性にふれながら欧州の電動化戦略を探っていく。

それぞれの国、メーカーの思惑が電動化戦略の温度差に

「販売される全ての新車を主要市場で2035年までに、世界全体では2040年までにEVなどのゼロエミッション車とすることを目指す」。2021年11月10日、国連気候変動枠組条約第 26 回締約国会合(COP26)で、脱炭素社会の実現に向けて新たな目標となる共同声明が発表された。日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、英国やスウェーデンなど欧州が中心となり28か国と11の自動車メーカーが署名。メーカー別では、積極的な電動化戦略を打ち出すドイツのメルセデス・ベンツをはじめ、米国のゼネラルモーターズ(GM)やフォード・モーターなどが署名した。

一方、ドイツのフォルクス・ワーゲン(VW)やBMW、日本の自動車メーカーなどは署名を見送った。ハイブリッド車(HV)などの多様な選択肢を残すことやEV化に時間がかかる地域があることなどが主な理由とされる。署名には国やメーカーだけでなく、投資家や金融機関らも加わり、脱炭素社会の実現に向けた活動への盛り上がりをみせる一面もあった。ただ、日本や米国、ドイツ、フランス、中国などの自動車大国は署名に消極的で、必ずしも世界的な足並みがそろっているとは言い難い状況だ。

メルセデス・ベンツは2030年にもガソリン車を廃止しEV専業メーカーになることを打ち出している
(出所:メルセデス・ベンツ日本メディアライブラリー)

とはいえ、電動化で先行するEU、欧州自動車メーカーの動きは注視すべきだ。EU内で唯一法案を提出する権限を有した欧州委員会は、21年7月に「35年にガソリン車やハイブリッド車の販売を実質的に禁止する規制案」を発表。欧州が先行する環境分野に紐づけてルールメイキングをしていくことで、欧州企業がグローバル市場で競争優位に立たせる考えだ。

21年通年の数字上でも欧州主要国のEVシェアが拡大しているのが分かる。ドイツ連邦自動車局(KBA)が発表したドイツの新車販売台数は前年比10%減の262万台だったが、このうちEVは同83%増の35万台でシェアは20年の7%から倍増。欧州でEVの普及が最も進むノルウェーのシェアは全体の約3分の2を占めるまでになり、フランスもシェア10%で3ポイント上がった。

自動車メーカーの動きも活発で、ガソリン車を廃止してEV専業に移行すると表明する企業が相次いでいる。英国のジャガー・ランドローバーはジャガーブランドを25年にEV専業にすると発表。メルセデス・ベンツは30年にもEV専業にして、電池セル工場の建設などを予定する。ボルボは30年までにEV専業のメーカーになると表明。フランスのルノーは1月13日に、30年までに欧州でのEVを含めた電動車の販売目標を従来の90%から100%に引き上げ、電動化をさらに加速させる方針を示した。一方で、VWはVWブランドのEV販売目標を30年までにグローバルで5割、欧州で6割とし、BMWもBMWブランドの目標をグローバルで5割にとどめている。電動化が加速する流れは間違いないもののメーカーごとの思惑が戦略の違いになって見てとれる。