会社員は加入者教育を通じて国や会社を初めて知る
もうひとつ加入者向けの教育をする中で、大きなハードルが公的年金・退職金制度の説明でした。DCの継続教育が法令上「いわゆる投資教育」と書かれていることから、「投資」関連の内容だけを伝えていると誤解されやすいのですが、制度導入時および新規加入時は制度の説明が圧倒的に多いのが実態です。
公的年金や他の退職金制度を補完して老後資産を作る位置づけである確定拠出年金にとって、土台の制度理解は欠かせません。ですから、こちらでも敢えて「投資教育」ではなく「加入者教育」という単語を用いています。企業内で公的年金や退職金について語られるのは、確定拠出年金が導入される前までは定年退職直前ぐらいでした。ですから、DC制度の導入説明会に参加する段階ではほとんどの方が公的年金と企業年金の区別がつきません。
その結果、2004年に閣僚の国民年金保険料未納が発覚し「未納三兄弟」と話題になったり、2007年には5000万件にもおよぶ納付記録漏れが発覚し「消えた年金記録」として連日ニュースなどで取り上げられたりすると、DCの制度説明会の現場でも「自分の年金が減らされたりするのではないか」と不安や怒りの声が飛び交うことが少なくなく、DCどころではありませんでした。
ただ、その会社に新入社員当時からずっと勤務している人たちにとっては「未納」も「記録漏れ」も関係ありません。ですから、順を追ってきちんと説明すると「不安」と「不信」が消えて安堵していただいた記憶が山のようにあります。
公的年金は長生きする私たちの老後の生活を支えてくれる大切な仕組みで、20歳以上の国民は原則加入しているにもかかわらず、DCの加入者教育以外に説明を受ける機会がありません。会社の企業年金もそうなのですが、もらう段になればその仕組みや有難さを実感できるのですが、それまでは老後や定年といった遠い将来のことでもあり、不安をあおられやすい特性があります。
DCの加入者教育が、会社や国が提供してくれるベネフィットについて正しく知っていただき無用な心配を減らす機会になっていることは大変意義深いことだと思います。
コミュニケーション方法は手探りの中でバラエティ豊かに
加入者への説明方法は職場環境・ネット環境の変化とともに、制度スタート当時の対面の集合セミナーと紙媒体のテキストというものから、社内報、メール・イントラへのPDF掲載・動画の掲載と広がっていきました。各社とも社員に情報が届きやすい手段が広がるたびにそれをDCにも活用しています。
そして2020年のコロナ以降は大企業を中心にWEBによるライブセミナーが急増しました。在宅勤務が広がる中で場所を問わずに参加できるWEBセミナーは開催する側の負担も軽い上に参加者が増えてコストパフォーマンスがいい、とか、ちょっとした質問がたくさん出て理解の底上げにつながったという好意的なご意見とともに、リアルな会場と違ってどの程度理解してくれたかといったあたりが掴みにくいというご意見もよく耳にします。
一方、1000名前後の企業では動画掲載が特に急増しています。物事をYou Tubeで調べるという世代にはマッチしている方法だと思います。ただし、関心が高い一部の加入者しか視聴せず、「教育をしてもらった」と認識する率が非常に低い手段であるということが、年金シニアプラン機構が2021年に実施した調査で明らかになっています。ですから、動画掲載をした場合には、会社側としては掲載にとどまらず、実際に加入者に視聴してもらう、つまり「加入者に届ける」という取り組みが欠かせないといえます。