パンデミックで痛感した、無形資産の大切さ
コロナ禍により親しい人にも会えなくなるなど、この2年近くは新たな日常を経験せざるを得なかった。リモート勤務も広がり、家族と過ごす時間が長くなり、そのメリットとともにデメリットを痛感した人は多い。職種による違いはあるが、仕事を失ったり時短を余儀なくされた人もいる。
緊急用の資金を持っていることの必要性も強く認識させられた。しかし、お金などの有形資産だけでなく、家族・親戚あるいは友人・知人などとの触れ合いなど、無形資産がいかに大切なものかも実感した。苦境を乗り切るだけの健康という無形資産も同様だ。幅広い知識やスキルを持ったり、特定分野の知識・スキルを保持することが、危機を乗り切る資産になることを痛感した人は多いはずだ。
交友関係を大切にし、健康維持に努め、生涯学習の意義を意識しての学習に励むなどの無形資産が、壊滅状態にもなりかねない事態を切り抜ける緩衝材になることを改めて認識させられた。
心豊かな人生を約束する、無形資産づくりにも取り組みたいものだ。
シニアになっても継続したい自己変革への挑戦
人生100年時代、退職した人や退職間近の人にもチャレンジ精神は必要なようだ。105歳の長寿を全うした医師の故日野原重明氏は、高齢だからこそ次々と新たなことに取り組む必要があると力説した。
評論家にとどまらず数多くの分野で活躍した故外山滋比古氏も、新たなことを始めることで視野が広まるとともに新たな友人もでき、結果として湧き上がるワクワク感は心身を若返らせるとした。若さを維持させることの秘訣とまで強調した。三日坊主でも結構、1つのことが飽きたら次のことを探しなさいと、脳や体を活性化し続けることの大切さを説いた。
物事を始めるのに遅すぎるということはない。アメリカで20世紀に活躍した女性画家にグランマ・モーゼスがいる。101歳の長寿を全うしたが、彼女が絵画を本格的に始めたのは76歳の頃だといわれる。子供の頃絵が好きだったとはいえ、貧しい農家に生まれた彼女は12歳から奉公に出て27歳で結婚、10人の子供を出産し、働き詰めの日々だった。
70歳で夫を亡くしたが、リウマチで動かなくなった手のリハビリを兼ねて始めた絵画が、やがて世間から注目を集めるようになった。トルーマン大統領からホワイトハウスに招待されるほどに、後半の人生は輝いた。“六十の手習い”という言葉があるが、彼女の場合はまさに“七十六の手習い”である。
しかし、いまや人生100年時代となり、“八十の手習い”も異例なことではなくなったようだ。ユーチューバーになったり、eスポーツで活躍するなど、若者顔負けのチャレンジ精神にあふれたシニアが増えている。
医療未来学の権威である奥真也氏によると、難病とされるがんでも、すい臓がんなどの一部を除いて治癒することが可能となるなど、病気では死なない時代となり、人生120年の時代になったとする。長寿化の中で、これまでの“健康格差の時代”から“生存格差(生きがい格差)の時代”になると力説する。生きがいのある人は死亡リスクが低くなるとする、約5万5000人を対象とする東北大学での7年間に及ぶ調査結果もある。新たなことに挑戦し続ける人生が、過去になく求められる時代だ。
執筆/大川洋三
慶應義塾大学卒業後、明治生命(現・明治安田生命)に入社。 企業保険制度設計部長等を歴任ののち、2004年から13年間にわたり東北福祉大学の特任教授(証券論等)。確定拠出年金教育協会・研究員。経済ジャーナリスト。
著書・訳書に『アメリカを視点にした世界の年金・投資の動向』など。ブログで「アメリカ年金(401k・投資)ウォーク」を連載中。