娯楽だけではない映画の効用
かなり昔の話になるが、『百万人の英語』という英会話習得のための人気ラジオ番組があった。講師の中に、五十嵐新次郎という個性的な英語の先生がいた。海外での生活や英語体験がないにもかかわらず、英語の発音が流暢で教え方も実践的であった。
ちなみに、今ではあまり耳にしないが、「I beg your pardon?」というフレーズを3通りの発音で披露し、その意味の違いを説明することがあった。文字通り“すみません”から始まり、“もう一度おっしゃっていただけませんか?”の発音へ、さらに“何ですって!”の違いだ。軽妙な語り口で見事に使い分け、筆者も楽しく発音しながら身につけたものだ。
同氏の英語学習は、主に映画館だったそうだ。洋画を盛んに見に行ったそうだが、何度も繰り返し見ることで英語の発音や表現を身につけたそうだ。その学習方法が特異だ。当時の映画館には画面が死角となる柱がいくつかあった。縦書きの字幕をあえてその柱で遮らせ、耳をそばだてて英会話の習得にいそしんだ。会話の内容が理解できないときは、頭を少しずらして日本語の字幕で意味を読み取ったそうだ。外国へ留学しなくても英語は習得できると豪語されていた。
海外の映画を繰り返し視聴することで語学を勉強する人もいる。ひと昔前の英語は、聞き取りやすいこともあり、オードリー・ヘプバーン主演の『ローマの休日』のDVDを借り、何度も何度も聞き直すことで、流暢な英語を習得した人がいる。
語学に限らず、映画から学べることは多い。科学技術から人間としての生き方、あるいは経済活動も学べるのはありがたい。
30年ほど前の作品となるが、1988年のオリバー・ストーン監督の『ウォール街』は、M&Aやインサイダー取引なども登場する金融サスペンスであり、アメリカでは投資銀行を目指す若い人たちが増加した誘因とされる。2010年には、この続編『ウォール・ストリート』が公開されるなど、注目度の高い作品だ。
2008年のリーマン・ショックを受けてのドラマとして、2015年に公開されたアダム・マッケイ監督の『マネー・ショート 華麗なる大逆転』も見逃せない。高利回りの債券を買い進む投資家たちの大きな動きに危うさを感知した主人公たちが、空売りで勝負を仕掛け巨額の利益を手にする物語だ。緊迫のひとときを楽しめる。