(1)投資対象/運用方針/現在のポートフォリオ

ファンド名やイメージは必ずしもそのファンドの実態を反映しているとは限りません。ご自身の見通しが“当たった”場合に、メリットが受けられるかどうか確認が必要です。

判定基準

・投資対象や運用方針が、ご自身が考える(注1)今後の市場環境(注2)の恩恵を受けるか?
・現在のポートフォリオ(および情報が開示されていれば過去のポートフォリオの変化)が、投資対象や運用方針と整合しているか?
・現在(および過去)のポートフォリオ(例:上位銘柄)がご自身のイメージに合っているか?

 (注1)本稿では今後の市場環境などに関する見通しをご自身である程度はお持ちの方を念頭にご説明しています。ご自身のお考えをお持ちでない方や見通しに自信が持てない方には、ファンド選定に取り掛かる前に考えていただくことがありますので、別の機会にお話しいたします。

(注2)ご自身で今後の見通しを立てられる際には、参考とされる情報の選択には注意が必要です。できる限り第三者の中立的な見解を参考とし、対象ファンドの運用会社や取り扱う販売会社の見通し、つまり営業バイアスのかかったファンド売り込みのための情報は、参考とされないことが望ましいと考えます。

(2)運用目標

運用成果の良否判定に必要であることは言うまでもありませんが、投資する前に想定されるリスクや期待リターンを考えるためにも、運用目標は明確に定められている方が望ましいと考えます。

判定基準

 ・目論見書等にベンチマークとなる市場指数等が明記され、更にそれを上回る超過収益の目標も開示しているか? ベンチマークだけでも明記されているか?  ベンチマークが定められていない場合でも、少なくとも月次/四半期報告書等で妥当と考えられる市場指数等とファンドのパフォーマンスを比較しているか?
・ ただし上記をクリアしていても、ベンチマークや比較対象となる市場指数等を過去に正当な理由なく変更している場合は注意が必要。

 (3)(直接)コスト

運用にかかるコストは確実にパフォーマンス上マイナスとなりますので、可能な限り削減するのが望ましい一方で、あまり削減すると特に優れた運用者などが運用するファンドへの投資が難しくなります。優れたアクティブファンドへの投資にはある程度のコストがかかることは止むを得ないと考え、そのコストを許容できる範囲に収めるようにすることが重要と考えます。

判定基準

投資信託に発生するコストには、購入時手数料や信託報酬などの投資家が直接負担する直接コストと、運用の一環として運用資産から支払われる有価証券売買委託手数料や監査費用などの間接コストがあります。しかしある程度の運用資産を有すれば間接コストは低水準ですので、ここでは話を簡単にするために直接コストの水準のみを評価します。

・ 競合ファンドに比べて高すぎないか?(注3)
・ 期待されるトータル・リターンに対して許容できる水準(注4)で抑えられているか?
・ 期待されるベンチマーク超過リターン(注5)に対して、アクティブ運用のための追加コストが許容できる水準(注6)で収まっているか?

(注3)インターネット上で検索可能なモーニングスター社のファンド分析情報の中に、同分類内のファンドの平均信託報酬率が記載されていますので、この数値と対象ファンドの信託報酬率を比べることは可能です。また購入時手数料は同じファンドでも販売会社によって異なる場合もあり、平均的な水準をファンドごとにデータとして入手することは困難ですが、概ね投資対象資産ごとに標準的な水準(例:債券で1.1%、バランス型で2.2%、株式で3.3%(全て税込))があるように思われます。

(注4)期待されるトータル・リターンのうちどの程度であれば直接コストを許容できるかについては、各投資家によって許容できる水準は異なるでしょう。例えば、期待リターン年率5%のベンチマークを年間3%上回るリターンを目標とする外国株ファンドがあるとします。このファンドの購入時手数料の上限が3.3%(税込)であり、信託報酬率が年率1.65%(税込)であると仮定します。5年投資を前提に計算すると、年間8%のトータル期待リターンに対して、年間の直接コストは(3.3% X 1/5) + 1.65%=2.31%ですので、トータル期待リターン8%の1/3未満となっています。筆者はこの割合が1/3を超えるファンドへの投資は見送るべきと考えています。

(注5)運用目標でベンチマーク超過リターンの大きさを明示しておらず、「ベンチマークを上回るリターンが目標」と示しているファンドでは、期待される超過収益は信託報酬率と同水準と考えられます。

(注6)上記(注4)のアクティブファンドに対して、購入時手数料上限0.55%(税込)および信託報酬年率0.55%(税込)のインデックスファンドを想定します。5年投資を前提としたこのインデックスファンドと上記のアクティブファンドとの年間直接コストの差は2.31% - (0.55%X1/5) – 0.55.% = 1.65% であるため、年間の超過収益目標の3%の1/2を超える水準となっています。筆者はこの比率が1/2を超えるアクティブファンドへの投資は極めて慎重に検討すべきと考えます。

(4)運用資産規模と増減スピード

ファンドの純資産額が小さい場合には、売買にかかる取引コストが割高になるばかりでなく、投資対象によっては(特に債券中でも社債(注7))十分な銘柄数に投資することができず、分散投資を行うことが困難となる恐れがあります。また、逆にファンドの純資産が大きすぎると、(特に中小型株やハイイールド債券に投資する場合)自らの売買で株価を大きく変動させないように各銘柄への投資金額に制約をかける結果、銘柄数が多くなりすぎ、ファンドのアクティブ度が低下する可能性もあります。さらにその増減スピードが非常に早い場合には、追加設定に伴う自らの買い注文で株価が上昇し実際の買付価格が割高になったり、逆に自らの解約による売却で保有銘柄を売り叩き、実際の売却価格が割安になってしまうなど、パフォーマンス上マイナスとなる可能性も否定できません。

判定基準

・ 対象ファンドの純資産金額は運用に支障をきたすほど小さくはないか(注8)?
・ または逆に大きすぎることで競合ファンドに比べ保有銘柄数が多くなりすぎていないか?
・ 対象ファンドの設定解約に伴う資産の増加/減少ペースが、同ファンドの過去の水準や競合ファンドの水準に比べて著しく早くはないか?

 (注7)債券投資では売買の最小単位は約1億円であり、それを下回る金額の売買は非常に困難かつコスト高となります。

(注8)株式ファンドで10億円、債券ファンドで30億円が一つの目安と考えられます。ただし、マザーファンドに投資するファンドの場合には、対象ファンドそのものではなく、複数のファンドからの資産を合算して運用するマザーファンドの純資産規模を確認することになります。

(5)分配水準・頻度

一時期に比べ分配型ファンドの人気は沈静化しましたが、依然として多数のファンドが分配型ファンドであり、高水準の分配金を支払うファンドには一定の人気があるのも事実です。定期的に分配金を支払うことを目的に運用されるファンドでは、その分配金の(目標)水準が現在の市場環境下では高すぎる場合、所謂「タコ配」となって運用資産の一部を取り崩しながら分配していたり、目標となる分配金を支払うためにクレジットリスクや為替リスクが高い資産に大きな比率を投資している可能性があります。また、分配金を頻繁に支払うために、保有する有価証券の換金頻度が高くなったり、現金のまま保有するケースが増えたりすることで、運用成果としてのトータル・リターンが犠牲になる場合もあります。

判定基準

・月次/四半期報告書などでポートフォリオの直近の利回り水準が開示されているか?
・上記利回り水準が分配利回りを下回り、「タコ配」状態とはなっていないか?
・現在のゼロ金利環境においても以前設定した分配利回り水準を目標に運用していないか? その達成のためにクレジットリスクや為替リスクが多大な高金利資産に大きなウエイトを置いて投資していないか?
・分配頻度が高いため、運用の効率性およびトータル・リターンでの運用成果が犠牲になっていないか?

(6)運用の継続性

長期投資に便利な金融商品として投資信託を利用する際には、選ぶ投資信託自体が長期投資を前提に設計運用されている必要があります。対象となっている投資信託が十分に長い信託期間を有しているか、あるいは繰上げ償還の対象となる可能性は高くないか等の確認が必要です。

判定基準

・単位型ではなく追加型投資信託であるか?
・信託期間が無期限もしくは長期投資に十分な期間を残しているか?
・現在の口数から考えて、近い将来繰り上げ償還条項に抵触する可能性は低いか?(注9)

 (注9)運用残高/口数が一定水準を割り込んだ場合には繰り上げ償還を可能にしているファンドは多く見られます。

(7)解約条件

運用成果はその投資信託を解約換金できて初めて享受することができます。解約に関する制約条件や追加コストなども確認することが重要です。

判定基準

・解約の時期や金額などが制約を受ける可能性はないか?
・解約時に手数料は発生しないか?(注10)
・解約時に信託財産留保額を負担する必要はあるか?(注10)

 (注10)解約時手数料や信託財産留保額は、追加コストとして前述の(直接)コスト判定で考慮すべきでしょう。

今回はアクティブファンドの定性評価の中でも、ファンドの基本設計にあたる商品性の評価についてお話ししてきました。上記(1)から(7)の評価項目における判定基準の中で、一つでも懸念される要素があれば、そのファンドへの投資は見送る、もしくは慎重に判断すべきと考えます。

次回はアクティブファンドの運用力評価についてお話しします。