手数料で荒稼ぎする「短期回転売買」の実態

例えば、購入手数料の料率が顧客の購入金額に対して2%という投資信託を月間2000万円集めたら、40万円の手数料収入が得られます。当時、株式の売買にかかる委託手数料の料率は売買金額100万円につき1%程度であり、かつ買いだけでなく売りにも掛かります。1カ月のうちに3000万円相当の株式を買ってもらうのと同時に同じ額の3000万円相当を売ってもらえば、売り買い往復で60万円程度の手数料が得られました。

こういう手数料をあてにしたノルマが課せられていたため、営業の現場で横行したのが「短期回転売買」です。どういうものかというと、投資信託は「クローズド期間」という解約不能期間を終えた段階で解約させて、その時、新規募集されている新しい投資信託に乗り換えさせます。株式は「日計り商い」といって、その日にお客さまに買ってもらった株式を、売買手数料以上の利益が出ている手数料抜けの状態で少し利益が出たら売却させます。手数料抜けで1万円くらいの利益が出ると、「1万円も儲かりました。今夜の呑み代になりますよ」などと言って売却させるのです。お客さまの利益は1万円でも、その売買のために負担した手数料は往復で2万円。解せない話ではありますが、そんなことが当然のように行われていました。もちろん、このようなアドバイスが全くお客さまのためにならないのは明らかです。

「今は時代が違う。何しろ金融庁が『顧客本位の業務運営の原則』に基づいた取り組み姿勢を金融機関に求めているのだから、そんなノルマ営業が行われているはずがない」という意見もあるのかも知れません。確かに前出の事例は私が証券会社に勤めていた時代のことですから、かれこれもう30年以上の昔の話です。

でも最近、あるFPの方からこんな話を聞きました。

「ある地方銀行で住宅ローンを組んだお客さまが、年0.6%のローン金利を提示された代わりに、条件としてつみたてNISAの契約をすることと、一時払い米ドル建て終身保険への加入を求められた」ということです。

このような地方銀行からの提案が、職員に対する苛烈なノルマによって出てきたものなのかどうかは分かりませんが、いずれにしても「顧客本位の業務運営の原則」が金融機関側になかなか浸透していないのは事実のようです。恐らくこの地方銀行の営業現場には、上(本部)からつみたてNISAと米ドル建て終身保険の契約数が、営業目標という名のノルマとして課せられていたことは、容易に想像できます。