企業型確定拠出年金と前払い退職金の仕組みを解説

企業型確定拠出年金(企業型DC)

どうやら山川さんの会社では退職金制度が変更され、企業型確定拠出年金(以下、企業型DC)の導入がされた、ということですね。

企業型DCはどのような仕組みかと申しますと、毎月、給与とは別に従業員のそれぞれの企業型DC専用の口座に、会社が掛金を拠出します(このお金を事業主掛金と言います)。そのお金で従業員はその口座で購入できる投資信託等を選んで、自分で運用します。原則60歳以上(現行、企業型は60歳以上65歳未満の規約で定めた年齢)まで、お金を引き出すことはできませんが、その口座の資産は従業員個人のものです。

事業主掛金は給与とされないので、社会保険料や所得税・住民税が掛かりません。そのため、掛金は何ら天引きされることなく、まるまる使えるのです。そして、そのお金はたとえ今は使えなくても、将来(原則60歳以降)従業員個人が自由に使えるお金になるのです。しかも運用益は非課税です。

お金を引き出す時は一時金や年金として受け取れますが、一時金受け取りの場合は、加入期間を勤務期間と置き換えた退職所得控除を差し引くことができます。年金受け取りの場合は、公的年金控除が使えます。

つまり、掛金を拠出する時、運用中、受け取る時に税制優遇がある制度です。

ただ、繰り返しになりますが、60歳までお金を引き出せません。そのため注意すべきは、60歳前で転職や退職をする場合、今の会社の企業型DCへの加入資格はなくなることです。転職先の企業型DCか、個人型確定拠出年金(以下、iDeCo)の口座に移換しなくてはなりません(脱退一時金の要件に該当する場合は除く)。さらに現行のルールでは、移換する際、運用が上手くいっていてもいなくても運用商品を売却して現金化しなければなりません。

前払い退職金

一方、前払い退職金は給与受け取り口座に給与と合算されて振り込まれます。手取りは増えますが、その分所得税や住民税、社会保険料が引かれます。よって、前払い退職金をまるまるもらえるわけではありません。

ただし、前払い退職金は給与に加算されるので、万が一の時の傷病手当金(健康保険)や失業手当(雇用保険)については、これらの給付を受け取る場合、その金額が多くなります。

ここまで、退職金と企業型DC、前払い退職金の解説をしました。

あらためて整理しますと、山川さんは「企業型DCの加入を希望しない」従業員=「前払い退職金」を希望する従業員として、事業主掛金を前払い退職金として受け取っているわけです。

もちろん、税金が引かれても確実に自分の手元にお金がある安心感も分かりますし、メリットもあります。ただ、もし制度を正しく理解していないまま今の選択をしているのなら、それはもったいないと言えるかもしれません。