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永田町・霞が関ウォッチャーのひとり言

ファンドの「製造物責任」、組成会社だけでなく販社にも? 当局が進める「プロダクトガバナンス」に一抹の不安

文月つむぎ
文月つむぎ
2024.05.07
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ファンドの「製造物責任」、組成会社だけでなく販社にも? 当局が進める「プロダクトガバナンス」に一抹の不安

市場制度WGで議論が本格的にスタート

4月24日に金融審議会「市場制度ワーキング・グループ」が開催され、「プロダクトガバナンスに関する基本的な考え方」について議論が行われた。「プロダクトガバナンス」は、金融庁が近年業界に持ち込んだ新しい概念だ。

筆者は2022年5月に公表された資産運用業高度化プログレスレポートにおいて、プロダクトガバナンスなる概念を初めて知った。

同レポートでは「資産運用会社が顧客利益最優先の業務運営を実践するためには、『真に投資家ニーズを踏まえた中長期に安定的なリターンを確保できる商品が組成、提供できているか』、『組成時に想定した運用が実践され、投資家へコストに見合うリターンを提供できているか』、『組成時に想定した運用を継続していくことが可能か』等の観点から、個別商品ごとに品質管理を行うプロダクトガバナンス体制を確立することが重要である。」(太字は筆者)と記載されており、商品を組成する資産運用会社のガバナンス強化を促す内容であった。

一方、今回の「プロダクトガバナンスに関する基本的な考え方」では、論点として、「プロダクトガバナンス体制の確保」、「商品組成時の対応」、「商品組成後の対応」、「顧客に対する情報提供」を掲げ、顧客の最善の利益に適った商品提供を確保するうえで、販売会社においても資産運用会社と情報連携を図るよう求めており、かなり対象者が増えた。

情報連携について、事務局は、商品組成時に「想定していた顧客」と、商品組成後に「実際に購入した顧客」のギャップを把握し、商品の提供方法の改善やその後の商品組成に活かす取組みが望まれるところ、「こうしたギャップ分析を適切に行うには、販売会社の協力が不可欠ではないか」としている。また、委員からも、「想定顧客の特定に際しても、資産運用会社と販売会社がともに情報を持ち寄って作業を進めるべき」、「資産運用会社と販売会社とが適切に役割分担して、プロダクトガバナンスを確保する体制や金融商品の運用体制について、投資家にわかりやすく情報提供すべき」といったコメントが発せられている。

当局の心意気は買うが… 評価基準を統一できるのか

今回の市場制度ワーキング・グループでは、こうした資産運用会社と販売会社の情報連携のほかに、想定顧客の特定や商品性(分類方法)についても、多くの委員よりコメントが寄せられた。以下、筆者なりにポイントをまとめてみた。

  • 想定顧客について販売会社と情報共有するには、ある程度統一した評価基準(手法)が必要ではないか(ただし、単に年齢で分類するなど、ステレオタイプ的な属性把握は良くない)。
  • 想定顧客について、どのような属性をどの程度把握し、運用会社と販売会社で情報共有していくべきか、金融庁が具体的な事例を紹介した方が良いのではないか。
  • 商品性については、誰に向くのか(積極的見地)だけではなく、誰に向かないのか(消極的見地)も検討すべき。
  • 想定顧客や商品性を(数値などを使って)ガチガチに分類してしまうと、商品開発の創造性・独創性を失う恐れがある。
  • 商品性(リスク・リターン・コスト)分析においては、商品種別(債券、株、投信、保険)ごとに、どのデータ、どの期間を使うかによって結果が異なってくることに留意すべき。
  • 商品性に関し、何をもって「複雑な商品」、「特殊な商品」、あるいは「不芳ファンド」等と分類すべきか整理が必要。
  • 商品組成時には、資産運用会社は顧客サーベイ・マーケットリサーチを行うことも考えるべき。商品性は第三者のファンド・アナリストの評価を活用することも一案。

 

こうしたコメントを聴きながら、想定顧客の特定や商品性の分類(リスク、リターン、コスト、複雑性、特殊性など)は容易ではないなと改めて感じた。想定顧客の特定に際しては、顧客の知識、経験、財産の状況、投資目的のほか、年齢やリスク許容度を考慮すべきとある。事務負担を考えると、定量的に分類する、あるいはパターン化して分類するといったことになろうが、資産運用会社にせよ販売会社にせよ、これまでのデータ蓄積量や分析ノウハウの違いにより分類方法が異なる中、結果として、例えば全く同じ内容の商品であっても、会社によって想定顧客が異なるといったケースが出てくるものと思われる。

また、商品性にしても、委員のコメントにもある通り、使用するデータや期間によってリスクやリターンの評価が異なるほか、複雑性や特殊性についても、どのような特性を指すのか見解が分かれるように思う。何十、何百とある資産運用会社、販売会社ごとに分類方法を合わせていくとなると膨大な時間と手間がかかってしまう。一方、分類方法を統一すれば、金太郎アメ的な商品ばかりが並ぶといったことになりかねない。

議論には上らなかったが、資産運用額が増え、複数の商品を組み合わせてポートフォリオ運用を行う場合は、個々の商品のみならずポートフォリオという塊で特性を把握する必要があると思われるが、そもそも、ポートフォリオがどのような状況であれば顧客に適合しているのか明確になっていないうえに、顧客がすべての金融資産を特定の販売会社(あるいは金融商品仲介業者)に開示しない限り、ポートフォリオ全体の適合性確認は難しい。事務局としては、まずは個々の商品からということだろうが、はたして「木を見て森を見ず」で、顧客の最善の利益を真に追求できるのだろうか。

議論の方向は正しいのだが、効率性と実効性の落としどころが実に難しい。(当局対応として)形式的な分析がはびこらないためには、プロダクトガバナンスの重要性について、顧客側の理解を深める必要もあるだろう。彼らの理解浸透に向けては、金融経済教育推進機構(J-FLEC)にも期待したいところだ。

市場制度WGで議論が本格的にスタート

4月24日に金融審議会「市場制度ワーキング・グループ」が開催され、「プロダクトガバナンスに関する基本的な考え方」について議論が行われた。「プロダクトガバナンス」は、金融庁が近年業界に持ち込んだ新しい概念だ。

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川辺 和将

著者情報

文月つむぎ
ふづきつむぎ
民官双方の立場より、長らく資産運用業界をウォッチ。現在、これまでの人脈・経験を生かし、個人の安定的な資産形成に向けた政府・当局や金融機関の取組みについて幅広く情報を収集・分析、コラム執筆などを通し、意見を具申。
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