PEのさまざまな投資形態
A氏:PE投資ではプライマリーやセカンダリーという言葉をよく耳にしますが、どういう違いがあるのでしょうか。
B氏:プライマリー投資は新規ファンド募集の際に当初から出資をコミットする形態で、コミット時点ではPEファンドには資産が何もない状態(ブラインドプール)です。一般的にファンド期間が10年と言われるクローズドエンド型のPEファンドに、最初から投資を実行し、長期投資の前提に立ってファンド期間全体を通じて得られるリターンを享受する形態で、PE投資の基本形はプライマリー投資になります。
ファンド期間のうち、投資完了までに3~4年程度の時間を要するのと、成長段階からの投資も多く、投資後数年間はキャッシュアウト並びに費用先行になるケースが多いです。いわゆるJカーブ※4 ですね。ただし、長期保有の後、投資先を売却する際には大きなキャピタルゲインが期待できる投資形態です。
C氏:最近は既存ファンドのLP持ち分をセカンダリー(2次流通市場)で買い取る方式も増えてきています。セカンダリーは投資開始からある程度時間が経過している持ち分を買い取るので、投資後は比較的早い段階からリターンが見込めます。そのため、Jカーブが発生しないか、発生しても相対的に浅くなるのが特徴です。またプライマリー投資よりもファンド保有期間は相対的に短くなります。
A氏:Jカーブが浅いファンドであれば、投資を決める際にも抵抗感が弱まりますね。
B氏:伝統的なLP同士のセカンダリーはLPが何らかの事情で持ち分を売却するケースになるので、買い手側としては一定のディスカウントが期待できます。このディスカウント部分は購入後の時価評価でNAVの増加に反映されるので、すぐにリターンとして出てきます。2022年からは米国の大手年金基金がデノミネーター効果※5 により、好調なPAの売却を余儀なくされてPEのLP持ち分を売却するケースも目立つようになりましたが、これはセカンダリーの買い手からするとそれなりのディスカウントも期待できるしチャンスですね。
C氏:そうですね。また最近では伝統的なLP主導のセカンダリーに加えて、GPが主導するGP主導型セカンダリーも増えてきているようです。
A氏:GP主導型セカンダリーは伝統的なLP主導型とどのような違いがあるのでしょう?
B氏:GP主導型は償還日が近くなったファンドがまだ1~複数件の投資先を残しているケースで、もう少し時間をかければ一層のバリューアップが図れるとGPが高い確度で考える場合に、継続ファンドを設立し当該投資先を継続ファンドに移管するスキームです。実績のある有力GPが高い確信度を持った選別された案件に投資できるという点はメリットかと思います。
C氏:ただし、GP主導型では投資先件数が少なくポートフォリオが分散されていないというリスクがあります。またLP主導型セカンダリーとは異なり継続ファンドに移管する場合のディスカウントはやや限定的になるかと思います。
A氏:既存ファンドのLPは継続ファンドでの投資を継続するのですか?
C氏:それを選ぶLPもいると思いますが、ファンド期間が残りわずかで投資残高が小さいファンドは売却して手間を省きたいというLPもいるのではないでしょうか。そのようなLPはセカンダリーファンドにディスカウントでLP持ち分を売却することになると思います。
B氏:そのセカンダリーファンドが継続ファンドに投資をするということです。
A氏:この数年GP主導型セカンダリー投資に関するセミナーの案内が多いですね。私も一度出席してじっくり聞いてみようかと思います。
A氏:共同投資という言葉もよく耳にしますがこれはどのようなものですか?
B氏:PEファンドのGPと共同で個別企業に投資するスキームです。初期段階からGPと共同で交渉、リストラクチャリング、資金調達等を行っていくので、GPと同等のスキルが要求されますが、ファンドへの手数料が不要なのでより高い収益が期待できます。またGPが投資して数年経過したところで投資先企業の規模を拡大したい場合なども、共同投資の呼びかけがGPからLPにあるようです。米国の大規模年金では自ら共同投資を実行することもあるようですが、GPと同等のスキルが必要になりますし、GPとしても勝手を知った人に共同投資家になってほしいと考えるので、日本では共同投資ファンドへの投資が一般的かと思います。
A氏:GPはなぜ他のGPに共同投資の提案をするのでしょう?
B氏:案件規模が大きい場合に共同投資によって投資金額を圧縮したいとか、共同投資ファンドのGPとパートナーシップを通じて良好な関係を構築したいというニーズがあるのではないでしょうか。この場合には共同投資ファンドは主導権を持つことはありません。
C氏:共同投資特化型ファンドはGP主導型セカンダリーと同様とはいいませんが、投資先の件数が限定される集中化リスクには注意が必要でしょうね。また有力GPとのネットワークが一定数のポートフォリオを構築するには必要です。GPとの強いコネクションがないと共同投資案件をソーシングできません。
B氏:そこはGPとの強いコネクションがあり、過去に共同投資の実績も豊富なファンドであれば安心できるのではないでしょうか。実際に共同投資ファンドを立ち上げているのは大手のFOFsマネジャーが多いです。
※4 Jカーブ(効果):PE投資では投資の初期段階ではファンドからの分配金もなく、ファンド報酬等の費用先行で収益やキャッシュフローがマイナスになる。投資後一定期間が経過するとファンドからの分配金も増えてくるが、累積キャッシュフローやリターン(IRR)の曲線がアルファベットのJに似ていることから、Jカーブと呼ばれる。
※5 デノミネーター効果:今回のケースでは2022年初頭からの株式や債券の価格低下で運用資産に占めるPAの比率が高まったため、あらかじめ決められたリバランス・ルールによりPEや不動産等のPAを売却し、その比率を決められた基準値内に低下させるもの。
シングルファンドとFOFs どちらを選ぶ?
A氏:シングルファンドへの投資とファンド・オブ・ファンズ(FOFs)ではどのような違いがあるのでしょうか?
B氏:シングルファンドは投資家が個別のPEファンドに投資するスキームです。FOFsと異なり自らPEファンドを選択できる自由度がありますが、それはPE投資に習熟し、PEファンドの選択眼があることが前提になります。また、欧米の有名マネジャーに対して日本のDBが単独でコンタクトするのは、極一部の例外を除き難しいように思います。PE投資の長期にわたる実績と相当の資金拠出能力があれば別でしょうが、逆にそういうDBであればシングルファンドを志向されるのではないでしょうか。
C氏:PE投資では分散が重要なポイントですが、シングルファンドだと投資先が限られるので分散投資のためにはファンドの数をある程度増やす必要があり、ポートフォリオ構築には大きな資金が必要になりますね。
A氏:FOFsもよく聞きますがこちらはいかがでしょう。
B氏:FOFsは複数のPEファンドに分散するので、投資家は相対的に小さい金額で分散投資が可能です。また個別投資家では直接投資が困難な欧米の有力PEファンドにアクセスすることも可能となります。
A氏:有力なファンドとは、例えばどういうところでしょう?
B氏:VCでは前述のAndreessen Horowitz(a16z)やFounders Fund、バイアウトではBain Capital、Silver Lake、CVC、EQTなどでしょうか。
C氏:FOFsではPEファンドとFOFsの両方にファンド報酬を支払うので運用報酬の負担が重くなりますが、PE投資をこれから始めるDBや資金面で制約のあるDBにとっては適した投資形態だと思います。
A氏:なるほど。これから始める場合はFOFsということですが、やはり最低投資単位は1000万ドルになるのでしょうか。それだと当基金の資金規模からは1~2本くらいしか投資できません。
C氏:信託銀行で信託商品になっているFOFsであれば、最低投資単位が200万~300万ドルのものもあるので、10億~15億円くらいの資金があればビンテージ分散しながらポートフォリオ構築ができると思います。PEファンドは運用期間が10年程度なので、当基金では1年おきに300万ドルずつコミットしていますね。ざっというと300万ドルコミットしたFOFsが5本走っているというイメージですが、PE全体のNAVの合計はコミット金額合計の300万ドル×5本=1500万ドルではなく、だいたい1100万ドル強で巡航速度になっています。
A氏:なるほど、参考になりました。