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年金運用から学ぶプライベートアセット投資の手引き

第5回:資産クラス編④ プライベートエクイティ【前編】

小倉 邦彦
小倉 邦彦
『オルイン』シニアフェロー 元 三井物産連合企業年金基金 シニアアドバイザー
2024.05.08
無料
第5回:資産クラス編④ プライベートエクイティ【前編】

さて、前回は資産クラス編の第3回として、日本の年金資産運用において急速に普及しているプライベートデット(以下PD)を取り上げました。今回はプライベートアセット(以下PA)投資の中でも特に歴史が長く、その主流となっているプライベートエクイティ(以下PE)を取り上げたいと思います。

PEは一言で言うと、投資家から集めた資金を用いて未公開株式を取得し、中長期的に経営に関与して企業価値を向上させた後に、株式市場でのIPOや第三者への売却(エグジット)を通じて資金を回収し、高いリターンを獲得することを目的とした投資ファンドです。

本論に入る前に少し横道にそれますが、PEの成り立ちについて簡単に振り返ってみたいと思います。PEの中でも創業期の企業に投資をするベンチャーキャピタル(以下VC)はかなり歴史が古く、現在とほぼ同じ形のVCは1946年にボストンで設立されたARD(American Research & Development)が第1号と言われていますが、その原型はハーバード・ビジネス・スクールのトム・ニコラス教授の著書※1 によると、19世紀の米捕鯨産業になるとのことです。捕鯨船の航海には巨大なリスクが伴うものの、運よく捕鯨がうまくいけば莫大な富を生み出すというロングテール型の投資構造※2 が現在のVCと同じであり、また、資金を提供する資産家(LPに該当)、捕鯨で一獲千金を狙う船長や船員(投資先企業)、両者をつなぐ捕鯨エージェント(GPに該当)によるパートナーシップが今のVCの構成と類似しているという点を理由に挙げています。

私見にはなりますが、15~16世紀の大航海時代の貿易船、あるいは大航海時代が始まる前に東方貿易を独占していたベニスやジェノバの貿易船もコンセプトは同じだと思いますので、実は中世からVCはあったと言っても過言ではないと思います。当時は一航海ごとに王侯貴族や裕福な商人から資金を集め、航海が終わると利益を関係者で残らず山分けにして一種のパートナーシップを解散していたので、これはクローズドエンド型ファンドの草分けと言えるのではないでしょうか。

一方で、PE投資の主軸であり成熟企業に投資をするバイアウトファンドは、1976年に設立されたコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)が最も古い米系のPEファンドと言われており、買収先の資産やキャッシュフローを担保に資金調達を行い、買収を実行可能とするレバレッジド・バイアウト(LBO)の手法を編み出した先駆者になります。以降、米国では次々とPEファンドが設立され、米国の年金では主要資産クラスになっています。

 PEの投資戦略もバイアウトやVC、グロースなどがありますが、投資形態でもプライマリーやセカンダリー、共同投資などさまざまです。ここから先は前回登場した運用執行理事A氏、B氏に加えB氏同様運用経験の長いC氏にも登場いただき(架空の人物です)彼らの会話の中でPE投資の留意点を説明していきます。 

※1 ハーバード・ビジネス・スクール トム・ニコラス教授著「ベンチャーキャピタル全史」による

※2 ロングテール型投資:成功確率は低いが成功した場合の利益は莫大である投資。ニコラス教授の著書では縦軸を企業数、横軸を利益水準とした場合に、VCではグーグルのようにリターン水準が突出した極少数の投資案件が全体のリターンの大半に寄与しているので、グラフの線が釣り鐘型の正規分布ではなく、長いしっぽ(ロングテール)のようになると説明されている。

3人のプロフィール

A氏:最近企業年金基金に常務理事兼運用執行理事として着任、本体では経理・財務関係の仕事に長年従事してきた。

B氏:常務理事兼運用執行理事として8年の経験があるベテラン。プライベートアセット投資には積極的。

 C氏:B氏同様運用経験の長いベテラン常務理事兼運用執行理事。最近プライベートアセット投資にはやや慎重姿勢。

PEはポートフォリオの収益ドライバー

A氏:これまで、不動産やインフラ、プライベートデット投資について説明いただき大変参考になりました。これらインカム系とは異なりますがPA投資の1つの主流でもあるPEは何が期待できるのでしょうか?

B氏:情報の非対称性が強い未公開株式に長期投資を行い、バリューアップを図った上で売却する手法によって、キャピタルゲインを主とした高いトータルリターンの獲得が期待できます。一般的にはIRR(Internal Rate of Return:内部収益率)で15~20%程度になると言われており、上場株式のリターンと比較しても大きなアルファが期待できます。

その意味ではPAの中では不動産やインフラ、PDのような安定したインカムが期待される資産クラスとは異なり、収益ドライバーとしての役割が期待できる資産クラスになります。

C氏:一方でPEはファンドの運用期間が一般的に10年におよぶ長期投資であり、流動性を欠いた資産クラスになります。また個別性が非常に強いので、GPや地域、戦略、ビンテージ等の分散が重要になってきます。長期保有になるので投資実行時の市況に合わせて投資タイミングを決めていくというのは難しいことから、継続的に投資をコミットしていく、いわゆるビンテージ分散が特に重要になってくると思います。

B氏:PEはPAの中でもリスクが大きい資産クラスになるので選別は慎重に行う必要がありますが、期待リターンは大きいので年金のポートフォリオでもPAのかなりの部分を占めているのではないでしょうか。インフラやPDと比べると歴史も長いし、まさにPAのメインストリームでしょうね。

C氏:JPモルガン・アセット・マネジメントが毎年実施している年金動向調査(2020年度)では確定給付企業年金(以下「DB」)の平均的なオルタナティブ投資の比率は2022年3月末の21.8%から2023年3月末には23.4%と増加し、PEは2022年3月末の3.0%から2023年3月末には4.0%と大きく増加しています。2022年度の好調なパフォーマンスでドルベースのNAVが増加したことや、23年3月までの円安効果もあり、比率が増えたようです。さらに、PEは株式代替として政策アセットミックス上は株式に含めているDBもあるので、実際にはもう少し多いかなという感じです。一方で、米国の大学はPEに積極的で、イェール大学のエンダウメントではPEが資産の4割近く※3 に上っています。日本の年金基金とは桁違いの大きさです。

B氏:それはすごいですね。海外ではポートフォリオ全体の目標リターンが高いので、資産配分でも期待リターンが高いPEを増やすということなのでしょうが、目標リターンが相対的に低い日本の年金基金はそこまでのリスクを抱え込む必要はないと思います。しかし、コロナ後のPEファンドのパフォーマンスは好調で、PEの保有比率の高いDBは鼻息が荒いですね。当基金でも継続的にPEに投資をしていますが、高いリターンが期待できるので少し比率を増やしていこうかなと検討しているところです。

C氏:ただ、VCは高金利の影響か2022年からパフォーマンスは低迷しています。バイアウトもここのところイグジットが低迷しておりやや勢いに陰りが見られるようです。

※3 『Yale News』によると2022年6月末の運用残高は414億ドル、うちベンチャーキャピタルが22.6%、バイアウトが15.8%でPEの合計は38.4%。

新興企業の成長に着目するVC&グロース投資

A氏:PEにはVCやバイアウトといった投資戦略があるようですが、どのような違いがあるのでしょうか?

B氏:投資先企業のライフステージに応じてさまざまな投資戦略があります。創業間もないアーリーステージで急成長が見込まれるような企業を投資対象にしているのがVCです。投資後一定期間が経過してバリューアップが実現すると株式を売却して投資資金を回収しますが、エグジットはキャピタルゲインが最も大きくなるIPO(新規株式公開)に限らず、他のPEファンドや一般企業へ売却するケースもあります。

C氏:VCは投資先企業が持つ革新的な技術や商品、アイデア等が持つ将来のアップサイドポテンシャルを評価して投資するので、企業としての実績はあってないようなものです。そのため、当たると大きいハイリスク・ハイリターンな投資ですね。PEファンドが数年かけて企業の成長を支援し、バリューアップを図って数十倍の企業価値で売却できることもあれば、当初の目論見が外れて紙くず同然になってしまうケースもあるので、まさに玉石混交といったところでしょう。PEファンドも当初は少数株主でスタートして成長段階に応じて徐々に追加投資をしていくというスタイルになると思います。

A氏:なるほど。VCはリスクが高い分、少額投資で分散が必要になりますね。

B氏:一方で、Andreessen Horowitz(a16z)のように優れたVCはTwitterを含むテクノロジー企業の初期段階に投資をして大成功を収めています。

A氏 まさにハイリスク・ハイリターンのロングテール型投資ということですね。ところでグロースはVCとはステージが違うのでしょうか?

B氏:VCとバイアウトの間に存在するものです。VCと同じスタートアップ企業が対象にはなりますが、VCがアーリーステージを対象とするのに対し、グロースはレイトステージの企業を対象にしています。ある程度事業が軌道に乗り成長を開始した企業に対し、事業のさらなる拡大や資本構成の見直しを行うための資金を少数株主の立場で出資するものです。バイアウトは過半数出資で経営権を獲得するのが基本ですが、グロースは違います。新たな成長軌道への手助けをするものですね。

C氏:VCはハイリスク・ハイリターンで「千三つ(せんみつ)」の世界ですが、グロースはある程度成長軌道に乗った有望企業に少数株主の立場で経営支援を行い、企業価値を向上させた後に投資回収を試みるので、性格が異なります。また、少数株主の立場で経営支援等を行っていくので、経営陣との意思の疎通が重要になります。

A氏:グロースはどちらかというとVCよりもバイアウトに近いものだと理解しました。

PEは一言で言うと、投資家から集めた資金を用いて未公開株式を取得し、中長期的に経営に関与して企業価値を向上させた後に、株式市場でのIPOや第三者への売却(エグジット)を通じて資金を回収し、高いリターンを獲得することを目的とした投資ファンドです。

本論に入る前に少し横道にそれますが、PEの成り立ちについて簡単に振り返ってみたいと思います。PEの中でも創業期の企業に投資をするベンチャーキャピタル(以下VC)はかなり歴史が古く、現在とほぼ同じ形のVCは1946年にボストンで設立されたARD(American Research & Development)が第1号と言われていますが、その原型はハーバード・ビジネス・スクールのトム・ニコラス教授の著書※1 によると、19世紀の米捕鯨産業になるとのことです。捕鯨船の航海には巨大なリスクが伴うものの、運よく捕鯨がうまくいけば莫大な富を生み出すというロングテール型の投資構造※2 が現在のVCと同じであり、また、資金を提供する資産家(LPに該当)、捕鯨で一獲千金を狙う船長や船員(投資先企業)、両者をつなぐ捕鯨エージェント(GPに該当)によるパートナーシップが今のVCの構成と類似しているという点を理由に挙げています。

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一方で、PE投資の主軸であり成熟企業に投資をするバイアウトファンドは、1976年に設立されたコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)が最も古い米系のPEファンドと言われており、買収先の資産やキャッシュフローを担保に資金調達を行い、買収を実行可能とするレバレッジド・バイアウト(LBO)の手法を編み出した先駆者になります。以降、米国では次々とPEファンドが設立され、米国の年金では主要資産クラスになっています。

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著者情報

小倉 邦彦
おぐら くにひこ
『オルイン』シニアフェロー 元 三井物産連合企業年金基金 シニアアドバイザー
1980年三井物産株式会社入社。本社、広島支店、ドイツ(デュッセルドルフ)等にて経理、財務業務を担当後、1998年~2006年 本店プロジェクト金融部室長。 2006年~2009年 米国三井物産ニューヨーク本店財務課 GM。 2009年~2011年 本店財務部企画室 室長。 2011年~2013年 三井物産フィナンシャルサービス株式会社 代表取締役社長。 2013年~2017年 三井物産都市開発株式会社CFO。 2017年5月~2022年6月 三井物産連合企業年金基金 常務理事兼運用執行理事。 2022年7月~2023年3月 同基金シニアアドバイザー。
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