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年金運用から学ぶプライベートアセット投資の手引き

第3回:資産クラス編② インフラ【後編】

小倉 邦彦
小倉 邦彦
『オルイン』シニアフェロー 元 三井物産連合企業年金基金 シニアアドバイザー
2024.02.29
会員限定
第3回:資産クラス編② インフラ【後編】

プライベートアセットに投資する際の留意点や心構えを中心に解説する本コーナー。前編と同様、立場の異なる3人の運用執行理事による座談会形式で、インフラ投資について深掘りしていきます。(架空の人物です)

3人のプロフィール

A氏:ヘッジ外債のマイナスに頭を悩ませており、PA投資をこれから手掛けようとしている年金基金の運用執行理事

B氏:PA投資を以前から手掛けており、ノウハウの蓄積もある程度進んだ年金基金の運用執行理事でPA投資に対しては積極的

 C氏:B氏と同じ経験値ながらPA投資に対してはここのところやや慎重姿勢

 

インフラ投資が内包するさまざまなリスク

A氏:規制資産のリスクもありましたが、インフラ投資は同じ現物資産の不動産と比較するとかなり複雑で難易度の高いリスクも内包しているように思えます。具体的にはどのようなリスクがあるのでしょうか?

B氏:インフラ投資では資産の建設が行われている建設段階(Construction Phase)と、建設が完了し操業が開始される運営段階(Operation Phase)とではリスクが大きく異なってきます。もう少し詳細に説明すると、建設段階の前にも資産の建設や運営を当局から承認してもらうプロセスがあり、OECD*5ではこれを開発段階(Development Phase)と呼んでいます。開発段階ではEIA(Environmental Impact Assessment=環境影響評価)の実施が大きな山場になります。環境問題なのでプロセスの途中で問題が生じると長期化するリスクがありますが、インフラファンドではこうしたリスクを避けるため、既にEIAを実施済みの現地資本に出資をして建設を開始するケースも多いようで、「プラットフォーム投資」と呼ばれているようです。

*5 OECD Infrastructure Finance Instruments and Incentives 2015による

A氏:パイプラインの敷設などは希少生物の生態系への影響や、森林の大規模な伐採等で環境面では難易度が高そうですね。実際に建設が始まるとどのようなリスクがあるのでしょうか?

B氏:建設段階では建設費増加によるコスト超過や完工遅延、性能未達等のリスクがあります。これらはEPCコントラクター*6との契約を固定価格の一括請負契約(Lump Sum Turn Key Contract)にすればリスクをEPCコントラクターにヘッジすることが可能ですが、同種案件の建設実績が豊富で信用力のある企業であることが重要です。特に、EPCコントラクターが工事途中で破綻すると大変なことになります。

*6 EPCコントラクター:インフラ資産の建設のため、設計(Engineering)資機材の調達(Procurement),建設(Construction)を一括して請け負う建設会社やエンジニアリング会社。

C氏:最近は想定を超えるインフレの影響で人件費を含む工事関係のコストが上昇しており、EPCコントラクター側で多額の損失が発生したというケースもよく耳にします。

A氏:インフラ資産は運営段階に入ると収益も計上されて、リターンの安定性が増してくるのでしょうか?

B氏:インフラ資産は完工すると確かにリスクは小さくなりますが、運営段階では別のリスクに晒される形になります。長期契約がなく売上がマーケットに依存する輸送セクター等では需要の減少による収益減というリスクを抱えています。インフレによるコスト増も売値にヘッジできないと収益悪化要因になります。逆に長期契約がある場合には、オフテイカー(インフラ資産が生み出す物やサービスの購入者)が倒産等で引き取りが困難になると売上が喪失し収益が大幅に悪化するリスクがあります。

また操業率の低下や予期せぬOPEXの増加等の操業廻りのリスクも多々あるので、設備の操業を任せるオペレーターは同種資産での実績が豊富であることが必須です。さらに最新鋭の技術を利用した施設も実績がないと危険です。インフラ資産で使用される技術は既に他所で相当数使われた実証済の技術であることが大前提であり、革新的な技術をトップバッターとして導入するのは、見かけはよいですが、(予定された性能が発揮できず)実験台になりかねないので回避すべきでしょう。

A氏:運営段階になっても油断できないですね。

C氏:Bさんが説明されたさまざまな商業リスク以外にも火事・地震・洪水等の自然災害リスクや政治リスク、カントリーリスクと盛りだくさんです。

自然災害リスクは通常は保険でカバーする形になります。暴動・接収・法律/税制変更等の政治リスクは先進国ではあまり気にする必要はないですが、新興国での案件では注意したほうがよいですね。また政治リスクは民間保険によるカバーが難しいので、公的機関に依存する形になります。日本だと独立行政法人となっているNEXI(日本貿易保険)等です。

A氏:さすがに国有化とか接収というのは、最近あまり例がないとは思いますが……。

C氏:でも、ウクライナ侵攻後の西側諸国による経済制裁に対抗して、ロシア政府が取った航空機リースやサハリンのエネルギー資源案件への対抗措置は、カントリーリスクの典型例と言えるでしょう。

B氏:そうですね。ただ理解していただきたいのは、インフラ投資はさまざまなリスクを内包しているのは事実ですが、それらのリスクをファンドマネジャーは上手く切り分けることで管理可能なものに仕立て上げているという点です。

リスクの移転先はオフテイカー、EPCコントラクター、民間保険あるいは公的機関による貿易保険/投資保険等さまざまですし、インフラ資産レベルでノンリコース(非遡及型)ローンを導入している場合は、レンダーにもリスクを移転しているということになります。

A氏:複雑ですぐに理解するのは難しいところもありますが、インフラ投資に関わるさまざまなリスクをファンドマネジャーが上手くコントロールして、安定的なリターンが出る資産に仕立て上げているという点はよくわかりました。

B氏:今までの議論を踏まえ各サブセクターのリスク・リターンの関係を図表4にまとめてみました。また、インフラ投資が内包するさまざまなリスクについても図表5で一覧にしてみましたので参考にしてください。サブセクターごとのリスク・リターンの関係はグラフにするとお互いの位置付けがよくわかりますね。

図表4 インフラ各サブセクターのリスク・リターンの関係
図表5 インフラ資産が内包する各種リスクの分類
 

プライベートアセットに投資する際の留意点や心構えを中心に解説する本コーナー。前編と同様、立場の異なる3人の運用執行理事による座談会形式で、インフラ投資について深掘りしていきます。(架空の人物です)

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著者情報

小倉 邦彦
おぐら くにひこ
『オルイン』シニアフェロー 元 三井物産連合企業年金基金 シニアアドバイザー
1980年三井物産株式会社入社。本社、広島支店、ドイツ(デュッセルドルフ)等にて経理、財務業務を担当後、1998年~2006年 本店プロジェクト金融部室長。 2006年~2009年 米国三井物産ニューヨーク本店財務課 GM。 2009年~2011年 本店財務部企画室 室長。 2011年~2013年 三井物産フィナンシャルサービス株式会社 代表取締役社長。 2013年~2017年 三井物産都市開発株式会社CFO。 2017年5月~2022年6月 三井物産連合企業年金基金 常務理事兼運用執行理事。 2022年7月~2023年3月 同基金シニアアドバイザー。
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