finasee Pro(フィナシープロ)
新規登録
ログイン
新着 人気 特集・連載 リテール&ウェルス 有価証券運用 金融機関経営 ビジネス動画 サーベイレポート
資産運用の常識を疑え

第15回 運用資産に関わる常識を疑え!(その4)
株式はリスクが大きいので投資初心者には不向き?

篠原 滋
篠原 滋
株式会社お金の育て方 代表取締役/資産運用ナビゲーター
2025.10.31
会員限定
第15回 運用資産に関わる常識を疑え!(その4)<br />株式はリスクが大きいので投資初心者には不向き?

「資産運用の常識」はどこまで信頼できるのか? お金の育て方 代表取締役/資産運用ナビゲーターの篠原滋氏が、テーマごとにその真偽を検証し分かりやすく解説します。

今回も運用資産に関わる「常識」を疑います。

【運用資産に関わる常識④】
株式はリスクが大きいので投資初心者には不向き?

資産運用関係の書籍やサイトで事実のように語られる「常識」の一つが、「債券は低リスク資産。株式は高リスク資産。」との認識です。債券は確かに低リスク資産と考えられますが、一般に認識されていないリスクが存在するため注意が必要であるということは、前回お話ししました。

今回は株式に関する「常識」を疑います。

株式は本当に高リスク資産でしょうか?投資初心者には適さないのでしょうか?

筆者も、価格変動の大きさを考えると、株式が高リスク資産であることを否定するものではありませんが、これから述べる理由により、むしろ投資初心者こそ株式投資に適していると考えています。

投資初心者こそ株式投資に向いている?

理由1:株式の価値は比較的安定して増加

株価は、その株式の価値を基準にして、人気度(需要と供給)によって割高になったり割安になったりしながら決定されると考えられます。従って、その価値が増加する株式ほど、いずれは株価も上昇するはずです。株式の価値の増加は、株価の上昇を下支えすると考えられます。株式の価値の指標の一つが(一株あたり)自己資本であり、その増加スピードは自己資本利益率(ROE)です。

2001年以降の世界株指数採用銘柄の平均ROEの推移をグラフ化したのが図1です。国や業種あるいは企業を選ばず、指数採用全銘柄に投資すれば、平均年率11.5%のスピードで保有する株式の価値を増やせたことになります。この間には2007年-2009年のリーマン・ショックを含む世界的金融危機があり、多くの企業で巨額損失を計上しましたが、それでもすべての上場企業の平均ROEは驚くほど安定しています。世界の株価の上昇はこうした株式の価値の増加に支えられてきたと言えるでしょう。年率10%を超えるリターンが期待できる資産運用は実行できれば決して悪くはない選択肢でしょう。

☑拡大画像

 

ただしこの株式の価値の増加は、そのまま享受することはできません。投資成果は大きく変動する株価で決定されるからです。図1に各年の株価指数のリターンを加えると図2となります。同じグラフですが、株価指数のリターンを表示するため、縦軸が大きく異なっています。年率11.5%のROEが問題とならない大きさで、リターンを決定する株価は変動してしまうからです。

☑拡大画像

 

しかしこの株価変動リスクの大部分は容易に抑制する方法があります。これも株式投資が初心者向きと考える理由の一つです。詳しくは理由3でお話しします。

理由2:自らの環境変化への対応が不要

株式に投資するということは、企業(群)の一部を保有することにほかなりません。部分的に保有する企業(群)には経営者も従業員もおり、彼らに得意とする市場(地域や業種)で、利益を上げるべく、働いてもらっています。 特に世界の各市場で株式を上場している企業(群)は、厳しい競争を勝ち抜いてきた優良企業(群)であり、優秀な経営者や職員を抱えています。彼らの事業環境に変化があった場合は、彼ら専門家に必要な意思決定を委ねた方が、外部の投資家である私たちが行うよりも適切な判断が期待できるのではないでしょうか。

また、環境変化に対応するとしても、各企業で何が行われているかリアル・タイムで知る手段はありません。したがって下した投資判断が意図しない結果に繋がる可能性もあります。例えば、大幅な円高/ドル安が予想されるため、保有する米国株に関してドル売り/円買いのヘッジを行うとします。しかし保有する米国企業の多くは米国外でもビジネスを行っているため、売り上げや資産の一部がドル以外の通貨になっているでしょう。米国株はすべてドルだと考えて為替ヘッジを行うとオーバーヘッジとなってしまう可能性があります。さらに各企業が独自に為替ヘッジなどの対応を既に行っているかもしれませんが、それをリアルタイムで知る方法はありません。

上記のような理由から、環境変化への対応は投資している各企業に任せる方が望ましいと考えられます。つまり投資初心者でも、何もしないことで環境変化を上手く乗り越えることができるのではないでしょうか。

理由3:基本的な投資戦略・手法でリスクの大半は管理可能

(1)分散投資

株式に投資する以上、安定的かつ継続的に株式の価値を高めてくれる企業を選別して投資したいと考えるでしょう。しかしそうした選別投資は容易ではありません。また短期ならともかく長期の見通しを立てて銘柄選定を行うのは一般の投資家には極めて難しいでしょう。

ではどうすれば良いでしょうか? 筆者は銘柄選定を行わず、できる限り多くの銘柄に幅広く投資すれば良いと考えます。銘柄を選ばず世界の株式市場全体に投資すれば、年率10%を超えるROEが期待できるのです。投資初心者でも、投資信託(例:インデックス・ファンド)を用いれば、この理に適った投資手法は容易に実行できるはずです。

(2)長期投資

株式投資では、株式市場が割安な水準にある時に投資したいと考えます。しかし実際にはそのような割安な時期は選びようがありません。となると(1)と同様に、タイミングも選ばず可能な限り長期で投資することが合理的な投資戦略と思われます。あるいは積み立て投資を行って投資タイミングを分散することもできます。こちらも投資初心者であっても容易に実行できます。

このように(1)分散投資と(2)長期投資を徹底的に実行することで、投資初心者でも、市場・国、業種、銘柄、そしてタイミングといった選定にかかるリスクの大半を容易に管理できます。ちなみに、(図2)のように、銘柄を選ばず、世界株指数採用全銘柄への分散投資を、2001年初から2024年末までリーマン・ショックを乗り越えて行った場合でも、株価変動の影響が抑えられ、全銘柄の平均ROEの水準に近い投資リターンが得られる結果となりました(図3)。これは投資初心者でも実行可能な投資戦略の成果と考えられます。

☑拡大画像

 

【以上のことから導き出された結論:運用資産に関わる常識④】

株式はリスクが大きいからといって投資初心者に向いていないわけではない。むしろ投資手法によっては投資初心者向きと考えられる。

株式は、事業推進と環境変化への対応のための頭脳とエンジンを有する唯一の金融資産です。事業に関するすべては各企業に委託し、投資家は長期で分散投資を徹底させることが重要です。投資信託を利用すれば、投資初心者の方でも合理的な投資戦略を容易に実行することができ、株価変動のリスクの大半を抑制することができます。

資産運用は、基本的にはご自身で判断し実行しなければならない孤独な作業ではあります。しかし、株式に分散して長期で投資することで、投資初心者でも世界の株式市場に上場する優良企業の力を資産運用の味方にすることができます。

次回は本連載の最終回となります。これまでの論点をまとめます。

続きを読むには…
この記事は会員限定です
会員登録がお済みの方ログイン
ご登録いただくと、オリジナルコンテンツを無料でご覧いただけます。
投資信託販売会社様(無料)はこちら
上記以外の企業様(有料)はこちら
※会員登録は、金融業界(銀行、証券、信金、IFA法人、保険代理店)にお勤めの方を対象にしております。
法人会員とは別に、個人で登録する読者モニター会員を募集しています。 読者モニター会員の登録はこちら
※投資信託の販売に携わる会社にお勤めの方に限定しております。
モニター会員は、投資信託の販売に携わる企業にお勤めで、以下にご協力いただける方を対象としております。
・モニター向けアンケートへの回答
・運用会社ブランドインテグレーション評価調査の回答
・その他各種アンケートへの回答協力
1

関連キーワード

  • #投資信託
前の記事
第14回 運用資産に関わる常識を疑え!(その3)
債券は本当に低リスク資産?
2025.09.30
次の記事
第16回 資産運用にまつわるさまざまな常識を疑え!【総集編】
「資産運用において疑うべき常識」を振り返る
2025.12.02

この連載の記事一覧

資産運用の常識を疑え

第16回 資産運用にまつわるさまざまな常識を疑え!【総集編】
「資産運用において疑うべき常識」を振り返る

2025.12.02

第15回 運用資産に関わる常識を疑え!(その4)
株式はリスクが大きいので投資初心者には不向き?

2025.10.31

第14回 運用資産に関わる常識を疑え!(その3)
債券は本当に低リスク資産?

2025.09.30

第13回 運用資産に関わる常識を疑え!(その2)
高金利通貨での運用は有利?

2025.08.29

第12回運用資産に関わる常識を疑え!(その1)
銀行預金ではインフレに負けるから投資すべき?

2025.07.25

第11回 投資信託選びの常識を疑え!(その3)
ターゲットイヤー・ファンドは万人向き?

2025.06.27

第10回 投資信託選びの常識を疑え!(その2)
バランス型ファンドは投資初心者向き?

2025.05.30

第9回 投資信託選びの常識を疑え!(その1)
投資信託選びにおいてコスト水準は非常に重要?

2025.04.30

第8回 アクティブファンド投資の常識を疑え!(その6)
過去実績の劣るアクティブファンンドは運用力でも劣る?

2025.03.31

第7回 アクティブファンド投資の常識を疑え!(その5)
アクティブファンドは過去実績の優劣で選ぶ?

2025.02.28

おすすめの記事

投資信託の「運用損益」プラス顧客率ランキング 
銀行、証券会社以外の選択肢とは?【IFA編】

Finasee編集部

【ネット証券&対面証券72社編】投資信託の「運用損益」プラス顧客率ランキング

Finasee編集部

個人投資家の力で日本企業を変える──
マネックス・アクティビスト・ファンド、設立5周年
松本大氏が魅力を語る

finasee Pro 編集部

まだ誰も見つけていない“スター候補”企業に投資できる―今、あらためて投資の醍醐味を提示する「クロスオーバー投資」とは

Finasee編集部

1位は「シティグループ米ドル社債/欧米マルチアセット戦略ファンド2024-12」! 債券持ち切り型運用に迷い?(24年12月の外債ファンド)

finasee Pro 編集部

著者情報

篠原 滋
しのはら しげる
株式会社お金の育て方 代表取締役/資産運用ナビゲーター
1996年に野村證券株式会社にて投資信託分析・評価業務を立ち上げ、独自の定性評価中心のプロセスを確立。2000年の野村ファンド・リサーチ・アンド・テクノロジー株式会社(“NFR&T”、野村フィデュシャリー・リサーチ・アンド・コンサルティング株式会社(”NFRC”)の前身)設立を経て、25年にわたり東京、ニューヨーク、ロンドンを拠点に国内外の多数の運用会社/ファンドの分析調査及び選定ファンドの組み合わせによる投資助言に従事。2021年9月に独立し、独自の視点に基づく合理的な資産運用並びに投資信託活用に関する情報発信を開始。2022年6月に株式会社お金の育て方設立に参加し代表取締役に就任。国際基督教大学教養学部卒。米国ニューヨーク大学スターン経営大学院経営学修士(MBA)課程修了。
続きを読む
この著者の記事一覧はこちら

アクセスランキング

24時間
週間
月間
「遵守か説明か」から「遵守か合併か」に――2026年の地銀政策はどこへ?金融審「地域金融力WG報告書案」を深読み
【運用会社ランキングVol.5】IFA法人からは「キャピタル」、「フィデリティ」、「アライアンス・バーンスタイン」の米系3社が盤石の高評価/IFA法人編
経営、本部、販売現場が価値観を共有し「真のコンサルティング営業」の実践へ case of ちゅうぎんフィナンシャルグループ/中国銀行
三井住友銀行の売れ筋で「社債」ファンドがランクイン、投資リスクに慎重になった理由は?
米国RIAが語るプライベート市場の進化と個人投資家への拡大【米国RIAの真実】──Midland Wealth Managementのエミル・スキ氏とジェイク・ステープルトン氏に聞く
「中途半端は許されない」不退転の覚悟で挑むリテール分野への新たなるチャレンジ case of 三菱UFJフィナンシャル・グループ
企業型確定拠出年金の運用商品を見直し、継続投資教育を刷新したヤマト運輸が加入者の反響を得た手応えとは
野村證券の売れ筋トップ10入りした「野村日本バリュー厳選投資」は国内株ファンドを左右するバロメーター
【運用会社ランキングVol.4】野村アセットマネジメントが2年連続トップ、3位に急浮上したのは大和アセットマネジメント/ゆうちょ銀行・郵便局編
富士通/富士通企業年金基金の企業型確定拠出年金の取り組み-加入者の関心を高めるセミナー、動画配信の工夫に迫る
【運用会社ランキングVol.4】野村アセットマネジメントが2年連続トップ、3位に急浮上したのは大和アセットマネジメント/ゆうちょ銀行・郵便局編
経営、本部、販売現場が価値観を共有し「真のコンサルティング営業」の実践へ case of ちゅうぎんフィナンシャルグループ/中国銀行
企業型確定拠出年金の運用商品を見直し、継続投資教育を刷新したヤマト運輸が加入者の反響を得た手応えとは
富士通/富士通企業年金基金の企業型確定拠出年金の取り組み-加入者の関心を高めるセミナー、動画配信の工夫に迫る
マン・グループの洞察シリーズ⑬
AIバブルのタイミングを計ることはできないものの備えることはできる
ファンドモニタリングは、どの指標を参照すればいいか
(4)バランスファンドのモニタリング① ベンチマークの課題とその解決法
こんな議論してたっけ!?資金交付制度だけじゃなかった、地域金融力WG報告書案で飛び出した注目ポイント3選
「顔の見える関係」づくりに注力、より良い企業型確定拠出年金制度の実現に大和ハウス工業がコミュニケーションを重視する理由
【金融風土記】東日本大震災からまもなく15年、福島の金融勢力図を読む
米国RIAが語るプライベート市場の進化と個人投資家への拡大【米国RIAの真実】──Midland Wealth Managementのエミル・スキ氏とジェイク・ステープルトン氏に聞く
【金融風土記】東日本大震災からまもなく15年、福島の金融勢力図を読む
経営、本部、販売現場が価値観を共有し「真のコンサルティング営業」の実践へ case of ちゅうぎんフィナンシャルグループ/中国銀行
「中途半端は許されない」不退転の覚悟で挑むリテール分野への新たなるチャレンジ case of 三菱UFJフィナンシャル・グループ
【プロはこう見る!投資信託の動向】
NISAに必要か?「毎月分配型」「債券メイン」ファンド、「特定の年齢層対象の制度」
新たな商品・制度の導入は、投資家のリスク許容度・理解度が鍵
【運用会社ランキングVol.1】販売会社が運用会社に求めるものは、運用力か人的支援か? 2025年の評価を発表!
【連載】こたえてください森脇さん
⑫元本保証でない商品の販売を嫌がる職員への働きかけ
長野市vs松本市"不仲説"を乗り越え統合の八十二銀・長野銀が、「もう取引しない」と立腹の取引先と雪解けに至るまで
三井住友銀行の売れ筋でランクアップしたファンドは? ランクインした「ライフ・ジャーニー」は期待以上のリターン
【運用会社ランキングVol.4】野村アセットマネジメントが2年連続トップ、3位に急浮上したのは大和アセットマネジメント/ゆうちょ銀行・郵便局編
金融緩和、インフレ、インバウンドで日本の近代美術作品に熱視線?――アート市場の最新動向を銀座画廊界キーパーソンに聞いた
ランキングをもっと見る
finasee Pro(フィナシープロ) | 法人契約プランのご案内
  • 著者・識者一覧
  • 本サイトについて
  • 個人情報の取扱いについて
  • 当社ウェブサイトのご利用にあたって
  • 運営会社
  • 個人情報保護方針
  • アクセスデータの取扱い
  • 特定商取引に関する法律に基づく表示
  • お問い合わせ
  • 資料請求
© 2025 finasee Pro
有料会員限定機能です
有料会員登録はこちら
会員登録がお済みの方ログイン
有料プランの詳細はこちら