今回も運用資産に関わる「常識」を疑います。
【運用資産に関わる常識④】
株式はリスクが大きいので投資初心者には不向き?
資産運用関係の書籍やサイトで事実のように語られる「常識」の一つが、「債券は低リスク資産。株式は高リスク資産。」との認識です。債券は確かに低リスク資産と考えられますが、一般に認識されていないリスクが存在するため注意が必要であるということは、前回お話ししました。
今回は株式に関する「常識」を疑います。
株式は本当に高リスク資産でしょうか?投資初心者には適さないのでしょうか?
筆者も、価格変動の大きさを考えると、株式が高リスク資産であることを否定するものではありませんが、これから述べる理由により、むしろ投資初心者こそ株式投資に適していると考えています。
投資初心者こそ株式投資に向いている?
理由1:株式の価値は比較的安定して増加
株価は、その株式の価値を基準にして、人気度(需要と供給)によって割高になったり割安になったりしながら決定されると考えられます。従って、その価値が増加する株式ほど、いずれは株価も上昇するはずです。株式の価値の増加は、株価の上昇を下支えすると考えられます。株式の価値の指標の一つが(一株あたり)自己資本であり、その増加スピードは自己資本利益率(ROE)です。
2001年以降の世界株指数採用銘柄の平均ROEの推移をグラフ化したのが図1です。国や業種あるいは企業を選ばず、指数採用全銘柄に投資すれば、平均年率11.5%のスピードで保有する株式の価値を増やせたことになります。この間には2007年-2009年のリーマン・ショックを含む世界的金融危機があり、多くの企業で巨額損失を計上しましたが、それでもすべての上場企業の平均ROEは驚くほど安定しています。世界の株価の上昇はこうした株式の価値の増加に支えられてきたと言えるでしょう。年率10%を超えるリターンが期待できる資産運用は実行できれば決して悪くはない選択肢でしょう。
ただしこの株式の価値の増加は、そのまま享受することはできません。投資成果は大きく変動する株価で決定されるからです。図1に各年の株価指数のリターンを加えると図2となります。同じグラフですが、株価指数のリターンを表示するため、縦軸が大きく異なっています。年率11.5%のROEが問題とならない大きさで、リターンを決定する株価は変動してしまうからです。
しかしこの株価変動リスクの大部分は容易に抑制する方法があります。これも株式投資が初心者向きと考える理由の一つです。詳しくは理由3でお話しします。
理由2:自らの環境変化への対応が不要
株式に投資するということは、企業(群)の一部を保有することにほかなりません。部分的に保有する企業(群)には経営者も従業員もおり、彼らに得意とする市場(地域や業種)で、利益を上げるべく、働いてもらっています。 特に世界の各市場で株式を上場している企業(群)は、厳しい競争を勝ち抜いてきた優良企業(群)であり、優秀な経営者や職員を抱えています。彼らの事業環境に変化があった場合は、彼ら専門家に必要な意思決定を委ねた方が、外部の投資家である私たちが行うよりも適切な判断が期待できるのではないでしょうか。
また、環境変化に対応するとしても、各企業で何が行われているかリアル・タイムで知る手段はありません。したがって下した投資判断が意図しない結果に繋がる可能性もあります。例えば、大幅な円高/ドル安が予想されるため、保有する米国株に関してドル売り/円買いのヘッジを行うとします。しかし保有する米国企業の多くは米国外でもビジネスを行っているため、売り上げや資産の一部がドル以外の通貨になっているでしょう。米国株はすべてドルだと考えて為替ヘッジを行うとオーバーヘッジとなってしまう可能性があります。さらに各企業が独自に為替ヘッジなどの対応を既に行っているかもしれませんが、それをリアルタイムで知る方法はありません。
上記のような理由から、環境変化への対応は投資している各企業に任せる方が望ましいと考えられます。つまり投資初心者でも、何もしないことで環境変化を上手く乗り越えることができるのではないでしょうか。
理由3:基本的な投資戦略・手法でリスクの大半は管理可能
(1)分散投資
株式に投資する以上、安定的かつ継続的に株式の価値を高めてくれる企業を選別して投資したいと考えるでしょう。しかしそうした選別投資は容易ではありません。また短期ならともかく長期の見通しを立てて銘柄選定を行うのは一般の投資家には極めて難しいでしょう。
ではどうすれば良いでしょうか? 筆者は銘柄選定を行わず、できる限り多くの銘柄に幅広く投資すれば良いと考えます。銘柄を選ばず世界の株式市場全体に投資すれば、年率10%を超えるROEが期待できるのです。投資初心者でも、投資信託(例:インデックス・ファンド)を用いれば、この理に適った投資手法は容易に実行できるはずです。
(2)長期投資
株式投資では、株式市場が割安な水準にある時に投資したいと考えます。しかし実際にはそのような割安な時期は選びようがありません。となると(1)と同様に、タイミングも選ばず可能な限り長期で投資することが合理的な投資戦略と思われます。あるいは積み立て投資を行って投資タイミングを分散することもできます。こちらも投資初心者であっても容易に実行できます。
このように(1)分散投資と(2)長期投資を徹底的に実行することで、投資初心者でも、市場・国、業種、銘柄、そしてタイミングといった選定にかかるリスクの大半を容易に管理できます。ちなみに、(図2)のように、銘柄を選ばず、世界株指数採用全銘柄への分散投資を、2001年初から2024年末までリーマン・ショックを乗り越えて行った場合でも、株価変動の影響が抑えられ、全銘柄の平均ROEの水準に近い投資リターンが得られる結果となりました(図3)。これは投資初心者でも実行可能な投資戦略の成果と考えられます。
【以上のことから導き出された結論:運用資産に関わる常識④】
株式はリスクが大きいからといって投資初心者に向いていないわけではない。むしろ投資手法によっては投資初心者向きと考えられる。
株式は、事業推進と環境変化への対応のための頭脳とエンジンを有する唯一の金融資産です。事業に関するすべては各企業に委託し、投資家は長期で分散投資を徹底させることが重要です。投資信託を利用すれば、投資初心者の方でも合理的な投資戦略を容易に実行することができ、株価変動のリスクの大半を抑制することができます。
資産運用は、基本的にはご自身で判断し実行しなければならない孤独な作業ではあります。しかし、株式に分散して長期で投資することで、投資初心者でも世界の株式市場に上場する優良企業の力を資産運用の味方にすることができます。
次回は本連載の最終回となります。これまでの論点をまとめます。
 
  
 
 
 

 
   
   
   
   
   
  