finasee Pro(フィナシープロ)
新規登録
ログイン
新着 人気 特集・連載 リテール&ウェルス 有価証券運用 金融機関経営 ビジネス動画 サーベイレポート
資産運用の常識を疑え

第10回 投資信託選びの常識を疑え!(その2)
バランス型ファンドは投資初心者向き?

篠原 滋
篠原 滋
株式会社お金の育て方 代表取締役/資産運用ナビゲーター
2025.05.30
会員限定
第10回 投資信託選びの常識を疑え!(その2)<br />バランス型ファンドは投資初心者向き?

「資産運用の常識」はどこまで信頼できるのか? お金の育て方 代表取締役/資産運用ナビゲーターの篠原滋氏が、テーマごとにその真偽を検証し分かりやすく解説します。

今回投資信託に関わる「常識」を疑います。

【投資信託選びの常識②】
バランス型ファンドは投資初心者向き?

投資信託の“専門家”が語る投資信託選びの「常識」のひとつが、「バランス型ファンドは初心者向き」との認識でしょう。多くの加入者が初めて投資を行うことが想定される確定拠出年金では、多くのプランでバランス型ファンドが採用されています。顧客のリスク許容度が低い銀行などの販売チャネルでは、バランス型ファンドを投資信託の入門商品と位置付け、預金などからの資金導入を図るケースも多いようです。

この「常識」は正しいのでしょうか。バランス型ファンドは本当に投資初心者向けなのでしょうか。まずはバランス型ファンドの商品性を確認します。

 

バランス型ファンドの狙いは?

バランス型ファンドは投資資産の間のリスク分散効果を狙って商品設計されています。国内外の株式・債券・不動産(リート)などの資産に“バランスよく”分散して投資することで、リスクを抑制しながらリターンを上げることを目指します。市場環境が不透明な時でも、リスクを抑えた運用ができるため、投資初心者にも適した投資信託であると考えられています。

ではなぜ、バランス型ファンドではリスクを抑えながらリターンを上げることができると考えられるのでしょうか。それは同一環境下でも投資対象資産ごとに異なる価格変動を起こすからです。

「すべての卵を同じカゴに盛るな」とはいうものの、異なる資産間に分散して投資しても、同じ方向に価格が変動しては分散投資の意味がありません。異なる方向に動いて、互いに価格変動を打ち消し合うことが、リスクを抑制するためには重要なポイントです。

この分散投資効果を、多くのバランス型ファンドが投資する株式と債券を例に考えてみます。

 

株式と債券の分散投資効果?

図1では株式と債券の景気サイクルの位置ごとの価格変動のイメージを表しています。好況時には企業収益が増加し、株価は上昇する傾向にありますが、物価上昇が金利上昇につながるため債券価格は下落すると思われます。一方で不況時には株価は下落するものの、金利低下により債券価格は上昇すると考えられます。

言い換えれば、株価と債券価格は反対方向に動く傾向があり、お互いの価格変動(の一部)を打ち消し合うため、合算したリターンはより安定するはずです。これが株式と債券の分散投資効果の基本的な背景です。

このように株式と債券の関係が安定していれば、その両方に分散投資するバランス型ファンドもリスクを抑えながらリターンを追求する運用を行うことができます。投資初心者向けの商品に求められる性格を有すると考えられるわけです。

しかしながら、株式と債券の間の分散投資効果は必ずしも安定しているわけではなく、特に近年では異なる状況にあるようです。

 

株式と債券の関係が変化?

株式と債券の分散投資の有効性は両者のリターンの相関係数で測ることができます。相関係数は増減の方向性が一致するかどうかを-1から1の数字で表します。1であれば全く同じ方向に同量増減することを表し、-1であれば正反対に同量増減することを表します。一般的には相関係数が小さければ小さいほど分散投資効果が大きいとされます。図1の例では相関係数はマイナスであったはずです。

図2・3では最低でも3年あるいは5年投資する前提で、株式と債券の36カ月リターンと60カ月リターンの相関係数の推移をグラフに表しました。図2は国内株式と国内債券の代表的指数の関係を、図3では新興国および日本も含む全世界株式と全世界債券の代表的指数の関係を表しています。

いずれのグラフからも相関係数の水準は安定していないこと、およびその水準は2020年ごろから大きく上昇し、分散投資効果も大きく低下していることが分かります。それではなぜ2020年ごろから大きく状況が変わったのでしょうか?

 

関係変化のきっかけは?

 

その理由を確認するために、世界の主要国の金利水準の変化を見てみましょう。図4は各国の10年国債の金利水準をグラフで表したものです。1990年ごろから2020年ごろまで約30年間にわたり下落し続けた金利水準がその後底打ちし、上昇に転じていることが分かります。

2020年以降といえば世界各国でコロナ禍が激しくなり、物価が上昇し、金利も上昇あるいは債券価格が下落を始めたころです。一方で企業業績も打撃を受け、株価も調整局面を迎えていました。

株価が低迷しても、そのマイナス(の一部)をカバーしてくれるはずの債券価格も下落に転じたため、分散投資効果が大きく低下したと考えられます。市場環境によってこれほど大きく分散投資の効果が変動するようでは、バランス型ファンドは初心者でも安心して投資できる投資信託とは言えないでしょう。

 

 

 

 

今後の見通しは?

図2・3からは株式と債券の相関はピークを打っているように見えますが、バランス型ファンドを取り巻く環境は依然として不透明です。株価は一本調子では上昇しないでしょうし、世界的なインフレ基調に加え、景気後退の可能性も高まっています。トランプ関税の影響もあるでしょう。投資判断にも投資環境の見通しに大きく依存する点でも、少なくとも現時点ではバランス型ファンドは投資初心者向きとは言い難いでしょう。

 

【以上のことから導き出された結論:投資信託選びの常識②​】

バランス型ファンドの商品性は変化している。現状では投資初心者向けとは言えない。株式と債券の関係性や市場環境の変化に留意

バランス型ファンドも含め多様な資産に分散投資を図るポートフォリオ運用の成果は、核となる株式と債券の相関に加え、その他の市場環境にも依存します。資産分散はいつも有効なわけではありません。異なる資産間での分散投資の効用は否定するものではありませんが、その効果も過信しないことが肝要です。

次回も投資信託選びに関する常識を疑います。

続きを読むには…
この記事は会員限定です
会員登録がお済みの方ログイン
ご登録いただくと、オリジナルコンテンツを無料でご覧いただけます。
投資信託販売会社様(無料)はこちら
上記以外の企業様(有料)はこちら
※会員登録は、金融業界(銀行、証券、信金、IFA法人、保険代理店)にお勤めの方を対象にしております。
法人会員とは別に、個人で登録する読者モニター会員を募集しています。 読者モニター会員の登録はこちら
※投資信託の販売に携わる会社にお勤めの方に限定しております。
モニター会員は、投資信託の販売に携わる企業にお勤めで、以下にご協力いただける方を対象としております。
・モニター向けアンケートへの回答
・運用会社ブランドインテグレーション評価調査の回答
・その他各種アンケートへの回答協力
1

関連キーワード

  • #投資信託
  • #アクティブ運用
前の記事
第9回 投資信託選びの常識を疑え!(その1)
投資信託選びにおいてコスト水準は非常に重要?
2025.04.30
次の記事
第11回 投資信託選びの常識を疑え!(その3)
ターゲットイヤー・ファンドは万人向き?
2025.06.27

この連載の記事一覧

資産運用の常識を疑え

第13回 運用資産に関わる常識を疑え!(その2)
高金利通貨での運用は有利?

2025.08.29

第12回運用資産に関わる常識を疑え!(その1)
銀行預金ではインフレに負けるから投資すべき?

2025.07.25

第11回 投資信託選びの常識を疑え!(その3)
ターゲットイヤー・ファンドは万人向き?

2025.06.27

第10回 投資信託選びの常識を疑え!(その2)
バランス型ファンドは投資初心者向き?

2025.05.30

第9回 投資信託選びの常識を疑え!(その1)
投資信託選びにおいてコスト水準は非常に重要?

2025.04.30

第8回 アクティブファンド投資の常識を疑え!(その6)
過去実績の劣るアクティブファンンドは運用力でも劣る?

2025.03.31

第7回 アクティブファンド投資の常識を疑え!(その5)
アクティブファンドは過去実績の優劣で選ぶ?

2025.02.28

第6回 アクティブファンド投資の常識を疑え!(その4)
アクティブファンドに投資する理由はない?

2025.01.31

第5回 アクティブファンド投資の常識を疑え!(その3)
アクティブファンドはインデックスファンドに勝てなくなる?

2024.12.26

第4回 アクティブファンド投資の常識を疑え!(その2)
アクティブファンドの運用実績はインデックスファンドに劣る?

2024.11.29

おすすめの記事

個人投資家の力で日本企業を変える──
マネックス・アクティビスト・ファンド、設立5周年
松本大氏が魅力を語る

finasee Pro 編集部

まだ誰も見つけていない“スター候補”企業に投資できる―今、あらためて投資の醍醐味を提示する「クロスオーバー投資」とは

Finasee編集部

1位は「シティグループ米ドル社債/欧米マルチアセット戦略ファンド2024-12」! 債券持ち切り型運用に迷い?(24年12月の外債ファンド)

finasee Pro 編集部

10億円以上の資産家が多いのは山口県、北陸ではNISA活用が進む。県民性から読み解く日本人の投資性向とは?

Finasee編集部

「正しい」資産運用を地域に提供し、獲得した信頼で残高を拡大させていく case of 広島銀行

Ma-Do編集部

著者情報

篠原 滋
しのはら しげる
株式会社お金の育て方 代表取締役/資産運用ナビゲーター
1996年に野村證券株式会社にて投資信託分析・評価業務を立ち上げ、独自の定性評価中心のプロセスを確立。2000年の野村ファンド・リサーチ・アンド・テクノロジー株式会社(“NFR&T”、野村フィデュシャリー・リサーチ・アンド・コンサルティング株式会社(”NFRC”)の前身)設立を経て、25年にわたり東京、ニューヨーク、ロンドンを拠点に国内外の多数の運用会社/ファンドの分析調査及び選定ファンドの組み合わせによる投資助言に従事。2021年9月に独立し、独自の視点に基づく合理的な資産運用並びに投資信託活用に関する情報発信を開始。2022年6月に株式会社お金の育て方設立に参加し代表取締役に就任。国際基督教大学教養学部卒。米国ニューヨーク大学スターン経営大学院経営学修士(MBA)課程修了。
続きを読む
この著者の記事一覧はこちら

アクセスランキング

24時間
週間
月間
【文月つむぎ】NISA拡充策の議論が本格化、押さえておきたい3つのポイント
金、暗号資産、日本の漫画・アニメに共通する「実質資産投資」の考え方とは?
SBI証券で“やはり強い”「オルカン」「S&P500」「FANG+」、一方で「ピークは7月末」で価格は横ばいの懸念も
暗号資産の"金商法適用"が既定路線に!有識者からは「正気の沙汰か」「ギャンブルだ」と批判も…金融審WG第2回会合で何が起きたのか
信頼たる資産運用アドバイザーには理由(わけ)がある “進化”した米国の資産運用ビジネスから日本が学ぶべき点は何か? 【米国RIAの真実】
【文月つむぎ】投資初心者を狙う「フィンフルエンサー」の脅威に備えよ 法規制があいまいな「グレーゾーン助言」の実態
ラッセル・金武伸治氏が解説する運用課題の解決のヒント
【オルタナティブ投資活用編】
eスマート証券の売れ筋から「国内債券」の順位が落ちる、新たに加わったファンドとは?
【連載】こたえてください森脇さん
④ネット証券ではなく、自金融機関で投信購入するメリットを説明できない。
「分配金」重視姿勢は根強いものの予想分配金提示型でトータルリターンを評価の流れ、野村證券の売れ筋にみる変化
暗号資産の"金商法適用"が既定路線に!有識者からは「正気の沙汰か」「ギャンブルだ」と批判も…金融審WG第2回会合で何が起きたのか
【文月つむぎ】NISA拡充策の議論が本格化、押さえておきたい3つのポイント
浪川攻の一刀両断
個人投資家がアドバイザーを選ぶ時代に、「J-FLEC」の検索エンジンに学べ
第13回 運用資産に関わる常識を疑え!(その2)
高金利通貨での運用は有利?
松井証券の売れ筋に現れた次代のスター候補銘柄、「オルカン」を大きく上回るパフォーマンスで注目のファンドとは?
資金流入額は「株式型」への流入増で7カ月ぶりに増額、パフォーマンスは中国A株と「ゴールド」=25年8月投信概況
「ゴールベース資産管理」の実践を通じストックビジネスへの転換を加速させていく case of 足利銀行
ファンドモニタリングは、どの指標を参照すればいいか
(1)インデックスファンドはトラッキングエラーに注目
地域金融機関44行が参加 バランスシート経営の強化へ向けたコンソーシアムが始動
特別対談/みずほ証券 浜本吉郎代表取締役社長×楽天証券 楠雄治代表取締役社長
提携から3年、価値観の相違に衝突する場面も
顧客が心地よく使えるシームレスなサービスを
信頼たる資産運用アドバイザーには理由(わけ)がある “進化”した米国の資産運用ビジネスから日本が学ぶべき点は何か? 【米国RIAの真実】
特別対談/みずほ証券 浜本吉郎代表取締役社長×楽天証券 楠雄治代表取締役社長
提携から3年、価値観の相違に衝突する場面も
顧客が心地よく使えるシームレスなサービスを
「ゴールベース資産管理」の実践を通じストックビジネスへの転換を加速させていく case of 足利銀行
【プロはこう見る!投資信託の動向】
2025年4月の株価急落は変化のトリガー、米国株式への強烈な資金フローの向かう先とは?
金融庁の大規模改編案は、下火気味の”プラチナNISA構想”の二の舞になるのか?【オフ座談会vol.7:かやば太郎×本石次郎×財研ナオコ】
FPパートナーへの業務改善命令は"FDレポートの保険版"?金融庁が処分にこめた3つのメッセージ
地域金融機関44行が参加 バランスシート経営の強化へ向けたコンソーシアムが始動
暗号資産の"金商法適用"が既定路線に!有識者からは「正気の沙汰か」「ギャンブルだ」と批判も…金融審WG第2回会合で何が起きたのか
「支店長! 同行訪問していただく際、緊張してうまく話せなくなってしまいます!」
【文月つむぎ】投資初心者を狙う「フィンフルエンサー」の脅威に備えよ 法規制があいまいな「グレーゾーン助言」の実態
ランキングをもっと見る
finasee Pro(フィナシープロ) | 法人契約プランのご案内
  • 著者・識者一覧
  • 本サイトについて
  • 個人情報の取扱いについて
  • 当社ウェブサイトのご利用にあたって
  • 運営会社
  • 個人情報保護方針
  • アクセスデータの取扱い
  • 特定商取引に関する法律に基づく表示
  • お問い合わせ
  • 資料請求
© 2025 finasee Pro
有料会員限定機能です
有料会員登録はこちら
会員登録がお済みの方ログイン
有料プランの詳細はこちら