PEの主流を占めるバイアウトは成熟・安定企業に投資
A氏:バイアウトはPEの主力のような感じですが実際はどうでしょう?
B氏:バイアウトは成熟期にある企業が投資対象になります。VCやグロースとの違いは株式の過半数を取得して経営権を握り、役員の派遣等で経営に深く関与することで企業価値の向上を図り、最終的には株式の売却または上場により利益を得るものです。
C氏:バイアウトは成熟期でキャッシュフローが安定している企業が投資対象になることが多く、PEの中では安定して高いリターンが期待できる投資形態なので、PE投資の主力になっています。
A氏:バイアウトファンドが経営権の取得にこだわるのはなぜでしょうか?
C氏:株式の過半数を取得せず経営権を持っていなければ、PEファンドがバリューアップのために人材や経営ノウハウを注入しようとしても、中途半端になる可能性があるからでしょうね。
A氏:バイアウトファンドの成功例は最近ではどのようなものがありますか?
B氏:国内企業に関わりが深い案件としては、日立製作所が2021年に約1兆円で買収して有名になったグローバルロジック社でしょうか。パートナーズ・グループのPEファンドとエクイティパートナーが共同でそれぞれ約45%を出資して2018年に同社株を取得し、3年後には企業価値ベースで5倍に高めることができたということなので、成功事例の1つですね。
A氏:すごいリターンですね。ところで、レバレッジド・バイアウト(Leveraged Buyout:LBO)という言葉もよく耳にしますが、バイアウトで用いられる手法なのでしょうか?
B氏:VCやグロースは少数株主の立場で出資するだけですが、バイアウトファンドは投資先企業の過半数持ち分を通じて経営権を取得するため多額の資金が必要になります。多額の投資資金の一部を出資ではなく外部借り入れで賄うことにより、他の案件に振り向けるための投資余力が残ることに加え、レバレッジ効果で投資効率が改善します。PEファンドのGPは投資家から高いリターンを期待されていることもありますが、自らの成功報酬を得るためにも投資効率を高めてファンドの運用成績を向上させる必要があるのです。
C氏:LBOの場合、ファンドは出資金だけにリスクを限定できるというメリットもあります。こうしたファンドのLBOによる借り入れの一部が、前回のテーマであったプライベートデット(PD)になります。貸し手となるPDのマネジャーは借入先が経営難に陥った場合に、PEファンドのGPによる追加出資を期待するところです。よほどのことがない限りは事業継続のためにGPが支援すると思いますが、これは約束されたものではないので、その時点でGPが投資資金の回収可能性をどう判断するかによると思います。
A氏:なるほどですね。ところで米国ではFRBの大幅な利上げによって、レバレッジを効かせたLBOにも何か影響が出ているのでしょうか?
B氏:そうなのです。前回のプライベートデット編でもお話ししたように、バンクローンのプライマリー市場低迷の影響で、PEのGPは20億ドル規模の大きな資金調達案件でもプライベートデットの一種であるダイレクトレンディングを選好するケースが増えています。
C氏:足元3カ月のTerm物 SOFRは5.3%にまで上昇していますが、ダイレクトレンディングでユニトランシェのスプレッドが700bpとすると、契約締結時に支払うコミットメントフィー(300bp程度)も考慮したオールインスプレッドは融資期間5年とすると750bpになり、仕上がりの金利は12.8%になってしまいます。ここまでデットの調達コストが上がってくると、一般的なPEの目標リターンであるIRR15%と大きな乖離がなくなり、レバレッジによるコスト低減効果が薄まってしまいます。規模にもよりますが、レバレッジをかけずにオールエクイティで手っ取り早く投資先企業を買収したほうがよいと考えるGPも出てくるでしょうね。
B氏:そこはCさんご指摘の通りだと思います。
A氏:それはプライベートデットにとって逆風になるのでしょうか?
C氏:GPも限りあるファンドの資金で投資を分散しないといけないので、全ての案件をオールエクイティというわけにはいかないでしょう。さらに金利が上昇すれば案件によってはそういうものも出てくるのでは、ということです。
財務課題を抱える企業に投資するディストレスト
A氏:PEのディストレスト(Distressed)投資とはどのようなものでしょうか?
B氏:文字通り破綻寸前の企業や破綻後に経営再建を目指す企業を投資対象とする戦略です。破綻寸前の企業の価値は大きく下落しているため、経営体制の改善や財務内容の健全化が進み、再生にめどが付けば企業価値は大きく回復するので、売却により大きなリターンを得ることができます。バイアウトのように株式の過半数を取得し経営権を握ったうえで、リストラを含む企業再生策に積極的に取り組んでいく場合もありますし、リスク分散の観点から少数株主の立場にとどまる場合もあり、ケースバイケースのようです。
C氏:一方で、企業再生がうまくいかなければ企業価値は大きく棄損するため、最悪の場合は倒産により株式が無価値になる可能性もあります。ハイリスク・ハイリターンの投資とも言えますね。
A氏:ドラマや経済小説に出てくる「ハゲタカファンド」もこれらの一種でしょうか?
B氏:以前はPEファンドが強引なリストラや事業の切り売りなどで短期的な利益を出して投資対象企業を売却、その後は事業の継続が困難になるケースが散見されたので、これらをハゲタカファンドなどと呼んでいましたが、今は経済小説の中の話でしょう。
C氏:昨今のPEファンドは短期的な利益を追求するより、時間をかけて事業をしっかり立て直し、最終的により大きなリターンを目指すというのが一般的な行動パターンですね。身近な例としてはリップルウッドによる日本長期信用銀行の買収などがあります。1988年に破綻して約8兆円の公的資金を注入された同行を10億円で買収し1200億円を追加出資、その後、新生銀行として再建させ2004年には再上場を果たしました。2005年の追加売却も含め再上場によりリップルウッドは約5000億円のリターンを獲得したと言われています。
A氏:旧長銀の債権が2割以上減価した場合には政府が簿価で買い取るという「瑕疵担保条項」の存在もあって、当時のマスコミは外資のリップルウッドに対して辛口でしたが、企業再生ファンドとしては成功事例だったようですね。