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新NISAで吹く「オルカン・ブーム」 日経平均やTOPIXには何が足りない?
”ミスター指数”牧野義之氏に聞く【前編】

finasee Pro 編集部
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2024.02.02
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新NISAで吹く「オルカン・ブーム」  日経平均やTOPIXには何が足りない?<br />”ミスター指数”牧野義之氏に聞く【前編】

新しいNISAが始まり、個人投資家の間では「オルカン」の愛称で知られる「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」をはじめ海外株中心のインデックス投信の人気が高まる一方、日本株は年初からバブル後の高値更新が続いている。果たして日経平均株価やTOPIXなどはインデックス投資の受け皿になれるのだろうか。国内外の株価指数をめぐる課題に詳しい牧野義之氏に聞いた。前編は「空前のオルカン・ブームをどうみるか」をテーマにとり上げる。

Q1 新NISAのスタートで、オール・カントリーなど海外インデックス投信が空前のブームとなっている背景をどう分析しますか?

過去のバブル期と、今回の新NISAとの違いを考える必要があります。例えばGDPで見ると、バブル期には世界全体の16%を日本が稼いでいましたが、現状ではわずか4%台にとどまり、おそらく2030年にかけて3%台に落ち込む見込みです。これは明治維新後や戦後復興期の水準とほぼ同じで、日本の地位が低下している現実を物語っています。


こういう状況で個人が投資を考える際に、第一の選択として必ずしもマザー・マーケットである日本株を選ぶよりも、世界に分散投資したり、勢いのある他国の市場に投資する動きが広がったりするのは当然です。分かりやすいところでは、日本でも多くのユーザーがテスラのEVに乗っています。身近な生活の中でも、米国市場の株価上昇をリードしている企業が果たしている役割を体感できます。例えばMSCIのオール・カントリー指数では米国株が約6割を占めており、グローバル投資といっても米国市場の存在感は群を抜いてます。オール・カントリー連動ファンドへの資金流入は、日本の個人投資家が「投資=日本株」という思い込みから脱して、より視野を広げて投資に臨んでいる現状を反映しています。


振り返ると、投信の銀行窓販が始まった1998年ごろにもグローバル投資の必要性が叫ばれましたが、残念ながら定着しませんでした。日本の投資家がそれほどグローバルにモノを見ておらず、「株式投資は危ない」という意識が先走りがちでした。「危険」は英語だとリスクではなくデンジャーと訳されます。ところが最近はリスクに対する考え方が、デンジャーからチャレンジ(挑戦)、あるいはアドベンチャー(冒険)へと、個人投資家の価値観が移っています。このような背景もあり、S&P500やオール・カントリーを通じて世界中の投資機会にアクセスをしてみたいという個人の意欲につながっているのではないかと思います。


今後はグローバルな株式市場を見る上で、各国の成長余力や、その中には昨今言われるグローバル・サウス、とりわけインド市場の発展に個人投資家も注目しながら投資が拡大していくでしょう。

 

Q2 「オルカン・ブーム」により、日本から海外へお金が逃げていくのでは?

私は若いころ、新興国で仕事をしていたことがあり、実際にキャピタル・フライトと呼ぶべき状況を目の当たりにしました。いま日本で起きているような、いわゆるオール・カントリー連動ファンドの人気を、単純に「キャピタル・フライト」の一言でくくることはできません。自国通貨の状況や、自国通貨建ての資産を防衛するという観点でとらえる必要があります。現状は円ドル相場でかなりの円安が進行しています。輸入製品の価格上昇がもたらすインパクトを体感しているわけですから、やはり資産防衛の観点から分散投資、通貨の分散の必要性が加わってきます。

ただし、財政破綻にまで至る形でのキャピタル・フライトが現時点で日本においても起きる事態はまだ想定する必要はありません。直近では日本株がこれだけ上昇しているので、個人の投資家も含めて日本株を持たないほうがリスクになると気づいている方もいると思います。

オール・カントリー指数でいえば、少なくとも日本株には5.5~6%くらいのウエイトがあります。先ほど言及した世界のGDPに占める日本の割合(4%)を上回るアロケーションがなされているので、国際分散投資の視点から必ずしも日本株が過小評価になっているわけではありません。

そもそも米国でもグローバル投資が根づくまでには時間がかかりましたし、むしろ現在の米国市場の動向はグローバルから国内へと回帰している可能性もあります。米国の株価に割高感がみられる中で、お金が自然とどの方向へ流れていくのかを考えれば、本来の企業価値よりも割安なメーカーが見直される展開になるように思えます。例えば同じ自動車業界でも、PERが50倍を超えている米国のテスラと、日本のトヨタを比べるといったことも考えながら、今後は賢明な投資が行われるでしょう。短期的なお金の流れでいえば、海外に日本の資産が流出しているようにも見えるかもしれませんが、現時点で大きな懸念を持つ必要はありません。

 

Q3 日本株をめぐり国内勢と海外勢に温度差は?足元の日本株に過熱感は?

確かに日本株は連日にわたりバブル後の最高値を更新したので、過熱している印象を受けるかもしれません。しかし、1987年10月のブラックマンデー以降のNYダウ平均と日経平均を比べた場合、チャートで見れば一目瞭然ですが、上昇の勢いはダウ平均の圧勝です。今後、日本企業が一層しっかりとした企業価値の創出ができるのであれば、それに即して株価の上昇が続く可能性が高いと思います。まだ他国企業に比べると割安感が強く、そういった比較で年初から海外の投資家が日本株への投資に向かっているとみています。


一方で国内勢の動きでは、特に長期の資産運用を担う年金基金(その中でも私的年金基金)は、過去一貫して日本株のエクスポージャーを減らしてきました。それが影響してか、日本株に対する見方が長らく弱気のままでした。ここにきて昨年来、日本取引所グループが市場構造改革を通じてさまざまな施策を行う中で、「PBR1倍」という言葉がクローズアップされてきました。裏を返せば、財務上の価値が100%株価に反映されている銘柄が評価されてしかるべきなのに、日本の場合は財務価値を下回るPBR1倍以下の企業があまりにも多すぎました。そういう非効率経営に改善を促すと同時に、各上場企業が努力することで大きく市場が変わっていく流れを投資家がつかんでいく中で、インデックスも含めて株価が上昇しているのが現状です。


ちなみに、「株式市場が死んだ」とさえ言われた米国の70年代から80年代は、いま転換を促されている日本の状況と似ています。当時の米国は生産設備など有形資産の評価が高い伝統的な会社が市場を主導していました。ところが米国では90年代以降、こんにちのS&P500を見れば明らかなように、企業価値では有形資産以上に無形資産が評価されるようになっています。日本でも今後、企業価値のあり方の変化を分析しながら投資が進んでいくでしょうし、国内投資家と海外投資家の動向に大きな違いは生まれなくなるとみています。特に日本の投資家は、内外株式の水準や自国の為替レートの状況、経済を取り巻く環境の変革などを踏まえながら、改めて日本株を見直す機運が出てくる可能性があると思います。
 

牧野義之氏
2008年5月、S&Pダウ・ジョーンズ・インデックス 日本オフィスに入社。2009年より同社の営業を主管。2010年8月、同社日本オフィス統括となり、日本におけるインデックスビジネスの拡大やETF市場の拡大等に尽力した。2021年9月末同社を定年退職。2022年4月1日より、株式会社JPX総研 エグゼクティブアドバイザー就任。内外のインデックスビジネスやパッシブ運用に関する動向についての情報収集を担当。
2022年10月より、株式会社想研の次世代アセット・インサイト2030の創設に際して、同企画のアンバサダーに就任した。S&Pダウ・ジョーンズ・インデックス入社前は、ソシエテ・ジェネラル傘下のリクソー・アセット、アクサ・ローゼンバーグ(現アクサ・インベストメント・マネージャーズ)、フランクリン・テンプルトン等の日本法人で年金基金など機関投資家を主とした営業の責任者等を務める。さらに、山一證券勤務時代は、支店法人営業、香港現地法人、インドネシア合弁会社、本社国際企画部にて営業並びに企画業務を担当。

Q1 新NISAのスタートで、オール・カントリーなど海外インデックス投信が空前のブームとなっている背景をどう分析しますか?

過去のバブル期と、今回の新NISAとの違いを考える必要があります。例えばGDPで見ると、バブル期には世界全体の16%を日本が稼いでいましたが、現状ではわずか4%台にとどまり、おそらく2030年にかけて3%台に落ち込む見込みです。これは明治維新後や戦後復興期の水準とほぼ同じで、日本の地位が低下している現実を物語っています。

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