【ソリューション】”自立的に学べ”はもう古い
もう一歩踏み込んで、具体的なアクションアイテムまで見てみよう。既に一部のアイテムは実施済、という企業も多いであろうが、ここでは可能な限りステップを漏らさず、全体を通して企業がサポートすることが重要だ。
育成のサイクル
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アクションアイテム
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ポイント
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①目標設定 「今(もう一度)、変わることの必要性を実感する」 |
①-1 |
人材定義や各種プログラムをブランディングして発信するなど、「学びたい」と感じさせる魅力づけを行う 時代の変化や取り残された場合のホラーストーリーを伝えるなど、「学ばなければ」という危機感を醸成する |
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①-2 |
組織目標とアラインする形で、個人の育成目標を人材タイプ・レベル等の定量基準を用いて策定する 「目標を与える」ではなく、「自分の意思で立ててもらう」 |
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①-3 |
育成目標をOJT・OFF-JT等の取り組み計画に落とし込む 取り組みの選択肢は推奨プログラムとして与え、個人が自身の目標に合ったものを自ら取捨選択できるようにする |
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②OJT・OFF-JT 「コーチ任せの授業に頼るだけでなく、専門家も活用する」 |
②-1 |
組織に必要な人材タイプ・スキルに対して、受入部署で学べることを紐づけ、実効性の確認をしたうえでプログラムとして立ち上げる 現場に不足する機能は、社外有識者などのサポーターを付けて補う |
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②-2 OFF-JT |
組織に必要な人材タイプ・スキルに対して、各コンテンツで学べることを紐づけ、実効性の確認をしたうえでプログラムとして立ち上げる 受講前後のフォローアップ(選択や振り返り)ができるサポーターを付ける |
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②-3 社内認定制度 |
デジタルスキルに特化した専門性評価の枠組みをつくり、育成のゴールとして位置付ける |
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②-4 社外資格取得 |
社内で評価が難しいスキルは、社外の制度も活用・導入する |
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③評価・報酬 「しがらみに捉われず、新しい枠組みを導入する」 |
③-1 社内評価 |
DX人材が市場水準に照らして妥当な評価を受けられる仕組みを、既存の人事評価に紐づけまたは追加して導入する |
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③-2 報酬制度 |
DX人材が市場水準に照らして妥当な報酬を受けられる仕組みを導入する |
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④アスピレーションの活用 「“従業員中心”を周囲がサポートする」 |
④-1 メンター制度 |
直属の上長とは別に、キャリア開拓を支援する立ち位置のサポーターを付ける トップダウンの指導ではなく、従業員に寄り添う形でキャリア形成や各種プログラムの受講を促す |
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【事例】金融機関X社の場合
最後に、DX人材育成のアクションアイテムをサイクル化して運営できているX社の事例を見てみよう。同社では、漠然とした危機感から、優秀な人材を選抜するなどして育成を試みたが、OFF-JT・OJTとも振るわず、停滞感が蔓延していた。現場の上長や育成対象者本人も、現業繁忙下で“やらされ感”に陥り、スキルアップの意義を感じづらくなっていた。
そこで、まずは①目標設定に立ち返り、関係者全員を育成プログラムに主体的に巻き込む方法はないかと考えた。これまでは人事部から一方的にプログラムを展開してきたが、よりDX人材が魅力的に見える紹介ビデオを作成したり、管理職も含めてDX人材育成の意義を主体的に捉えて頂くリーダーシップ研修を導入したり、といった追加の施策により、育成に関わる全員が自分事として取り組みを前向きに捉えてもらえるようになった。
また、②OJT・OFF-JTの内容も一新した。従来は、DX推進部署や人事部が手掛けられる範疇で、既存のeラーニングを中心に講座を展開したり、OJTに協力してくれる一部の部署とタッグを組んで毎年わずかな受入を実現したりといった程度が限界で、必要なスキルを得るうえでは不十分であった。
そこで、プログラムをより実効的かつ充実したものにするため、コンサルティング会社やベンダーの力も借りて、自社で不足する要素は外部で補うこととした。例えば、“育成”観点での指導に慣れておらず負担を感じていた現場の上長を外部有識者がフォローしたり、案件自体がない時期や部署においては、ビジネス・Tech双方の優秀な人材をDX組織に集結させ、有識者も含めて案件組成を考案したり、といった形だ。そのような取り組みにより、「社内の既存案件にアサインし、後は現場で育ててもらう」といった固定観念から脱却し、柔軟な選択肢をもって取り組みを進められるようになった。
③評価・報酬についても見直しを行った。DX人材について既存の評価制度へ即座に組み込むことが難しいため、任意のスキルアップとして位置付けていたものの、なかなか対象者の士気が上がらないことが見えてきた。そこで、評価運営を強化し、フェーズに応じて外部の有識者も入れて客観的な評価を行うことにした。処遇への反映はこれからだが、DX人材がスキル相応の報酬を得る事ができるよう、制度自体を見直す予定である。
そして、これらの取り組みをトップダウンで押し付けるのではなく、社員一人ひとりの④アスピレーションの活用を促すべく、個人の成長を上司―部下という直列的・閉塞的な関係性に閉じさせず、キャリアプランについて継続性をもって相談できるアドバイザー人材を登用し、育成対象者に1名ずつアサインした。アドバイザーは、対象者のキャリアプラン・スキル目標を把握した上で当該年度のOJT・OFF-JT受講計画について助言を行い、うまくいっていないことがあれば、対象者の上司ともコミュニケーションを取るなど伴走的に成長をフォローした。これにより、一人ひとりが中長期的な展望をもって自立的にスキルアップに取り組みつつも、必要なタイミングでサポートを得ることもできるようになり、停滞者・離脱者が大幅に減少した。
こうして、X社のDX人材育成は一定軌道に乗り、いわゆるプロフェッショナル水準に届く人材も年間数名ずつ安定して輩出されるようになった。しかし、ここで新しい課題が見えてきた―育った人材が活用されていない、という問題である。せっかくスキルを習得し、認定を得たDX人材が、案件にアサインされず持て余してしまっているようだ…一体なぜこのようなことが起きるのだろうか?
解決の糸口は、次回「DX人材をいかに活用するか?」で解説していきたい。
出所
(※1)総務省 第4次産業革命における産業構造分析とIoT・AI等の進展に係る現状及び課題に関する調査研究(平成29年)
(※2)株式会社パーソル総合研究所 グローバル就業実態・成長意識調査(2022年11月)
(※3)総務省 令和3年社会生活基本調査「従業上の地位・雇用形態・勤務形態・週間就業時間・希望週間就業時間・年次有給休暇の取得日数・ふだんの健康状態・仕事からの個人の年間収入・収益,行動の種類別総平均時間-週全体,有業者,男女総数(15歳以上)」(2022年12月)
(※4)厚生労働省 令和4年度能力開発基本調査(2023年6月)
(※5)厚生労働省、令和3年版労働経済の分析(2021年7月)および毎月勤労統計調査
(※6)OECD、労働時間(Hours worked)(2022年または最新のデータ)