――はじめに、黒田前日銀総裁時代の金融政策について総括していただけますか。
黒田前総裁の思い切った金融緩和はアベノミクスの中心的政策であり、当初日本経済の空気を明るくしたという点では功績と言えます。ただ10年タームで見ると、金融政策は決して構造改革の代わりにはならないことが明らかになりました。金融政策には、一時的な景気落込みをある程度和らげる効果が期待できます。しかし、日本経済低迷の原因である少子高齢化、硬直的な労働市場、デジタル化の遅れといった構造問題には対処できません。
国際決済銀行(BIS)のチーフエコノミストだったウィリアム・ホワイト氏は2012年に、「思い切った金融緩和には痛み止めの効果があるが、それに政府や議会が甘えて構造改革を先送りにしてしまうと、結果的には時間の浪費になってしまう」と述べています。この 10 年間で、まさにホワイト氏の言葉が現実のものになりました。