夫婦で企む結婚詐欺『夢売るふたり』

そんな西川作品の中で、お金にまつわる映画といえば『夢売るふたり』(2012)。松たか子演じる里子(さとこ)と、阿部サダヲ演じる貫也(かんや)夫妻が結託し、結婚詐欺をはたらく物語です。

10年苦労して出した居酒屋をほそぼそと営む二人。オープンから5年、常連客もついて順調だったお店を火災が襲います。失意の底にあるとき、ある出来事をきっかけに里子が再建の糸口を「結婚詐欺」に見出し、女たちを次々と騙していきます。

店舗再建を叶える大金と、妻と結託して夫が女性に“夢を売る”ことの狭間で変わりゆく夫妻。と書くとシリアスな作品に見えますが、西川作品には珍しくエンタメ性の強い仕上がりで、哀しくも少し可笑しい人間の性を堪能できる一本です。

詐欺師にとっての「チョロいカモ」とは

結婚詐欺というと、顛末を聞くたび「なぜそれほどの大金を簡単に渡してしまうの?」と不思議になるものです。しかし、その被害は後を絶たず、最近では会ったこともない相手から金品を騙し取る「国際結婚詐欺」なるものも話題を集めています。何百万円ものお金を渡すかどうかは別にして、不安や寂しさを癒やす存在に出会うと心を許してしまう、という弱さは、誰にも多少はあるのではないでしょうか。

ただ、「いくらなんでも、詐欺に遭うほど自分はヤワじゃない」と思い込んでしまうのが、こうした人間の脆弱性の厄介なところ。自分の弱さや寂しさを自覚していない人ほど一度信頼すると疑うことをしませんから、詐欺師にとっては“チョロいカモ”なのでしょう。

同様に人の心の弱さにつけ込む、振り込め詐欺は、被害者のほとんどが高齢者ですが、その理由は保有資産の大きさや体力・判断力の低下に加え、寂しい気持ちに寄り添う人が周りにいない、という点にもありそうです。