1974年7月8日は、『ゆれる』(2006)、『ディア・ドクター』(2009)、『永い言い訳』(2016)などで知られる映画監督、西川美和氏の誕生日です。

広島県出身の西川氏は、県下有数の女子校に進学後、早稲田大学へ。映画の世界を目指し始めたのは就職活動の時期。入学当初に考えていた文章に関わる職業は、年齢を重ねてからでもできるのではと考えるようになり、映画業界を目指すようになったといいます。しかし、時は1996年、就職氷河期の真っ只中。特に映画業界は採用活動を休止する企業も珍しくない状況で、就職は叶いませんでしたが、西川氏はこのとき映画監督になるきっかけをつかみます。映像制作会社テレビマンユニオンの採用面接の試験官に、のちに映画監督として名を馳せる是枝裕和氏がいたのです。

数年の助監督経験を経て、2002年に『蛇イチゴ』で脚本・監督デビューを果たします。以来、映画ファンをはじめ、近年では幅広い層に支持を受ける作品を世に送り出しています。

ニセ医者、不倫作家……「一筋縄ではいかない」人間を描く

西川氏は脚本も自身で手掛ける映画監督で、最新作『すばらしき世界』(2021)は『身分帳』(佐木隆三・著)を原案としていますが、その他の作品は全てオリジナル脚本によるものです。

田舎にとどまり慎ましく暮らす兄と、夢を追って上京し、思うまま生きる弟。僻地の診療所で村じゅうの信頼を集めるニセ医者。妻が亡くなる瞬間、不貞行為に及んでいた小説家――。オリジナル脚本作品の主人公をざっと紹介するだけでも「一筋縄ではいかないヒューマンドラマ」という西川氏の作風が垣間見えます。実際、西川氏自身も、興味の対象は「社会からあぶれてしまったような人物」だと語っており、殺人の罪で13年もの間刑に服し、世間からも時代からも、過去の自分からも引き離された男を描いた『すばらしき世界』にも、その傾向が色濃く見て取れます。